京都での一件の後、いつものように何もないような顔をして私の部屋に現れた廉造に麦茶を出しながら私も何もないような顔であのね、と月並みな前置きで用件を切り出した。
「辞めた」
「は?」
そう、辞めたのである。
今までどっちつかずであっちにふらふら、こっちにふらふらと危なげな生活を送ってきた私だったがついに変化を求めて動き出したのである。簡潔に一言で伝えたものの、彼には全ては伝わらなかったらしくこてんと首を傾けられ頭にハテナのマークを浮かべられた。こういう所は可愛い。
「だから、辞めたんだって。バイト」
「バイトって…コンビニ?」
「も」
「も、って……え、まさか、」
辞めた、というには語弊がある。コンビニのバイトは今月のシフトいっぱいで退職、エロ本のモデルは契約終了の方向で動いている。コンビニはまだシフトが残っているし、モデルだって契約が切れるまでまだ大分期間がある。麦茶の注がれたグラスを傾けて最後まで飲み切ってついでに廉造の分のグラスも空けてやった。苦味も渋みもない麦茶の美味しさの余韻に浸りながら腰を上げて立ち上がる。前屈みになった反動でブラをしていない胸がゆさゆさ揺れるのが非常に鬱陶しいが我慢をしつつベッドへとダイブする。
「廉造が祓魔師になるって考えたら、ね?私ももうちょっといい職つかなきゃなあって思って」
「……名前ちゃんがそれでええなら、俺はええけど」
「廉造が珍しくまともな事言ってる…」
「真面目な時くらい真面目な事言いますて」
はああ、と面倒臭そうに溜め息を吐いた廉造が私の隣に飛び込んでくる。安物の折り畳み式ベッドがぎしぎしと悲鳴を上げるものだから壊れるんじゃないかと少しだけひやりとした。
「めんどくさ…勉強、祓魔、就職、将来云々…」
「それでも塾と勉強と、それから私に会うのを頑張ってたんだよね」
「名前ちゃんに会うんは頑張る事ちゃいます。会ってからむっちゃアピってたん俺の方ですよ?」
「廉造は手に入れたら満足しそうなタイプだと思ってたなあ」
「そんなんあらしません。名前ちゃんのこと好き、で、す」
頭を肩口に抱き寄せられ自然と廉造に寄り添う体勢になる。頭上から降ってくる言葉に思わず笑いそうになるのを堪えタンクトップを着ていて剥き出しになっている廉造の肩に唇を押し当てた。面倒臭がりでやる気がなくていつも中途半端な儘が好き、女の子とエロ本が大好物で勝呂くんに「何であないな奴と…」と疑問を抱かせてしまう位どうしようもない人だけど。私を想う気持ちが本当であるならば、それでいいかなあと思ってしまう。
「どもった。かわいー」
「う、だ、だって…こんなん言い慣れてへん…」
「うん。ありがとうね」
顔を上げて唇に触れるだけのキスを落とせば不満そうに膨れていた表情も少し柔和になる。一ミリすら動くのも怠い体を動かして廉造の体の上にうつ伏せに乗り上がる。胸板の上で胸が潰れて息苦しいものの、布一枚越しに柔らかい感触に触れられていちいち胸を高鳴らせている変態が嬉しそうなので少しだけ耐えてみる事にする。先程の彼の言葉に対する返事ついでに煽る事も忘れずに。口角を上げて彼の両手と私のを繋げて恋人繋ぎ。胸を浮かせて谷間を見せつつ甘ったるい言葉で一言囁けばいい。
「私も、廉造の事好きだよ」
随分とチープで演技めいた所作なものの、言葉自体は本音なのだから此処は一つどうか大目に見てもらいたい。分かりやすい煽りにも素直な反応を示し、キャミソールの上から胸にしゃぶりついて乳首を一心不乱に舌で擦り甘噛みしてきている彼には一番良い愛情表現だと思うから。
結局十五歳の男と二十歳の女の恋愛なんて、これ位青臭い方が丁度良いのだと思う。