真夏の京都は、暑い。
夜でも続くサウナのような蒸し暑さの中で一瞬だけ風を向けてくれる扇風機が今の私の癒しである。
首を揺らしてあちこちに風を送る扇風機に風呂上がりで濡れた髪を揺らされながらせわしなく携帯を開いたり閉じたりを繰り返す。
驚かせたい、というよりほぼ確実に驚くと思う。
けれど、同時に引かれてしまわないかと不安な気持ちも抱いている。廉造が通っているという塾ではどういった事を習っているのかは分からず終いで未だにもやもやを引き摺っている。先日、実習とやらで負った傷の深さを電話で告げられ少しだけ怖くなった。
廉造に最後に会ったのは、終業式の前の週。其処から廉造には会っていない。
塾。実習。肋にヒビ。京都遠征。頭の中で浮かぶワードに合わせて携帯を開いて、閉じて。
私が知らない廉造は嫌だ。いつも黙った儘冷たい目で私を貫く。虚像だと分かっていても、いつか彼がそういった視線を向けて来るんじゃないかと、そう考えてしまう。

「臆病者」

自嘲めいた科白をぽつりと呟いたと同時に開いた携帯に漸く指を這わせ矢印ボタンの右を一つ押せば発信履歴に何度も名を連ねている彼の名前。
少しの躊躇の後、思い切って発信ボタンを押す。ゴウ、と扇風機の風が私の前髪を掻き上げるのを手で押さえながら耳には当てずに発信中の画面を見つめる。楽しそうに画面を駆け回るデフォルメされた猫のキャラクターの画像は廉造が見つけてお揃いで設定してある。
これを思い出す度私達も相当な馬鹿ップルだと考えてしまうが、近頃は若気の至りと開き直ってしまっている。通話口から漏れ出すのはお決まりのコール音ではなく最近の歌手が歌う話題作。確かCMのテーマソングになっていたから誰でも一度は聞いた事がある歌。話題になってもいつかは名前は衰退し人々は忘却してしまう。
エンドレス、狂ったように歌い続ける通話口の向こう。発信中の画面は結局変わる事は無く私は携帯を閉じる。
夜に着信音が鳴り響くと皆に迷惑が掛かるのでマナーモードに設定してコンセントに繋がれた充電器を差して枕の横に放り投げ、私は仰向けになり天井を見上げた。出るか出ないか。たった二つしか用意されていない答えの内の一つが提示されただけで、それだけでこんなに胸が重く感じるのは何故だろう。

「……暑い」

うっすらと滲む額の汗を拭いながらこの虚しさが逃げたいが為に紡いだ言葉は、熱帯夜の京都の暗闇へと消えていった。

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