「そういえば、あけましておめでとう」

「あー…おめでとうございます」

バイトからあがる時間に合わせて迎えに来てくれた廉造と手を繋いで暗くなった空の下、神社への道程をゆったりと進む。思い出したかのように新年の挨拶を口にした私に廉造は苦笑しながらも同じ常套句を言ってくれた。炬燵で勉学に励んでいたらしく優しい熱を持った廉造の手に年末年始の寂しさがじわりと融解していくのが分かった。
初詣以外では訪れないであろう神社には朝ほどではないがそれなりの数の参拝客が集まっていた。無料で配っているお神酒に惹かれている廉造の首根っこを掴んで参拝の列に並んで順番を待つ。ダウンジャケットとマフラーを着込んだ廉造がふう、と息を吐き出せば神社を照らすオレンジ色の照明の中でふわりと白息が風に吹かれ流れていった。

「名前ちゃん、お神酒飲みたい」

「駄目。宿題まだ終わってないんでしょ?」

「いけずやなぁ。ほんなら、甘酒は?」

「……まぁ、一杯だけなら」

直ぐ目の前の客ががらんがらんと鈴を鳴らすのを眺めながら繋いだ手を揺らせば、甘酒を配る巫女服姿の女性に鼻を伸ばしていた廉造がハッとしたように真顔になった。どうやら釘を刺されたと思っているらしい。嘘ではないから取り敢えず黙っておこうと考えつつ横にずれて退いた参拝客の後に続いて賽銭箱の前に立つ。
事前にコンビニのレジでくずした五円玉二枚を取り出し片方を廉造に渡して賽銭箱へと放り投げてがらがらと太い紐を左右に揺らし鈴を鳴らして手を合わせる。生憎常識は最低限のものしか持ち合わせていない為参拝の正しい手順を踏めていない事については目を瞑って欲しい。

「名前ちゃんは何をお願いしたんです?」

紙コップから立つ湯気に息を吹き掛け中身を冷ます廉造はふと思い出したように私を見下ろす。ふわりと香る甘酒の匂いに包まれながら少しだけ思考を巡らせた後、特に隠す事は無いと結論を出し私は素直に願った事を口にした。

「廉造がもう少し頭がよくなりますようにって」

「何ですのんそれ。酷いー」

「でも正十字学園に入れる位には頭はいいわけだし、願う程でもないかもね。塾も頑張ってるみたいだし」

寒いのが嫌で逃げるように部屋に帰って来ると靴を脱ぐ為に玄関でもぞもぞ動いていた廉造の動きが私の言葉によって止まった。かのように見えた。
コートを脱ぎながら首を傾けると廉造は何処か思い詰めたような表情で靴を脱ぎ捨て居間へと歩みを進める。ちゃんと揃えてって言ってるのに、と苦言を漏らそうとした私の言葉は急に変わった視界の切り替えに追い付けず途中で潰えてしまった。

「どうしたの?着替えらんないよ」

「……」

「おーい?聞いてるー?」

「……」

「……」

声を掛けても反応が無いので甘酒に酔ってしまったのかと顔を上げようとするも、伸びて来た腕が頭を鷲掴みにして目の前にある胸に押し付けてくるので廉造の顔を確認する事が出来ない。冷気をたっぷり含んで冷たいダウンジャケットとくっついているのは何だか嫌で、手を動かしてジャケットのファスナーを下げて長袖のTシャツの上に羽織ったカーディガンへと顔を埋める。

「よしよし」

胸元に顔を埋めた儘なので手探りで手を上げてピンクブラウンの髪を探り当て、短い髪には不要だと分かっているものの手櫛で優しく梳いてやる。言いたくないなら何も言わなくていい。またいつもの廉造に戻るまでただ黙って傍に居てやる位しか私には出来ないけれど。
暫く頭を撫で続けていると私の身体を抱き寄せていた腕が離れ私の腕を掴む。名前ちゃん、と名を呼ばれなあに、と返事をすれば目を閉じて上を向くように言われた。拒否する理由も無いので言われた通りに目を閉じて顔を上げると直ぐに唇に柔らかくて温かいものが当たる。
触れるだけだった口付けは徐々に深くなっていきぺろりと唇を舐める舌に応えるように私も唇の間から舌を差し出す。舌を絡めながら前を開けた廉造のジャケットを脱がして床に落とす。冷えた空気の中から閉ざされた視界の中に入り込んでくる蛍光灯の光が眩しいを通り越して少しだけ痛い。流れに任せてベッドに押し倒され舌を吸われて腰を浮かせた所で私は漸く瞼を押し上げ廉造の顔を覗く事が出来た。
普段からは想像が付かない位険しい表情を浮かべて私を見下ろす視線に射抜かれ、私は何も言えない儘ニットを捲り上げられ肌を冷たい空気と白い光を照らす蛍光灯の光の下に晒すのだった。

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