もしも実家に住んでいたならきっと豪華な振袖に身を包んで今頃は初詣に行っていたに違いない。年末年始だろうと私の生活スタイルであるコンビニのアルバイトのシフトは相変わらずローテーションを繰り返しこの土日に被った大晦日と元旦にも朝からがっつりシフトが入っている。
学園から二十分程歩いた所にある神社にお詣りに行く人達で二十四時間営業中のコンビニは有難い事に今日も賑わいを見せている。
籠の中身は大体が酒、つまみ、菓子。煙草にファストフード、店頭販売のおでんや肉まんもよく売れる。

「ありがとうございました、またお越し下さいませ」

慣れた手付きで客を捌いていきバーコードを読み取り手早くビニール袋に収めていきながらちらりと店内に視線を滑らせると、カロンカロンと黒塗りの草履を鳴らし彼氏と手を繋いで店内を歩く振袖姿の女性が目に入ってきた。
羨ましい、そんな気持ちは胸の奥に押し込んで私は再び接客に意識を集中させていった。


昼を少し過ぎた辺りで漸く目まぐるしい慌ただしさから解放され、延々と流れる有線を聞きながらトラックで運ばれて来た品物をすっからかんになった棚へと補充していく。
廉造はクリスマスに正月に京都の実家に帰るという話をしていたものだから、どうせなら家族とゆっくり過ごして欲しいと思いクリスマスから連絡をとるのは控えていた。廉造からも暫くメールや着信が途絶えていたが年が変わった数十分後にメールが一通、私が寝付いた後の夜明け頃に着信が一件入っていたが私から連絡をとろうとしても廉造からのリアクションは未だにない。きっと年明けそうそう家族に酒でも飲まされて酔っ払っていたのだろう、それか家族に初めて出来た彼女を見せびらかしたかったのかもしれない。

「名前ちゃん」

そういえば廉造の家族ってどんな人達なのだろうか。兄弟が多くて末っ子に近い廉造は面倒くさがりで平和主義だからきっとしっかりしてる方が多いに違いない。エロ本のモデルなんてご両親からしたら彼女として認められないだろうなあ、ちゃらんぽらんなギャルやチャラ男よりは良識はあると自負しているがこればかりは胸を張って公言出来るわけがない。
何だか急に不安になりパンの品出しをしながら深く溜め息を吐き出すと、後ろから先程聞こえた声がまた響いてきた。

「そんな溜め息吐いたら幸せ逃げますえ」

とうとう廉造の声まで聞こえてきた。あと片手で月を数えていけば私達は出会って一年を迎える。最初はくるみくるみと連呼してて煩い人としか認識していなかった筈なのに、今は現実になるかも分からない彼との両親との対面を想像して自信を無くす程度にまで彼の入れ込むようになってしまった。
廉造の事をこんなに好きになるなんて自分でも全く想像していなかったが、思えば彼が私をくるみではなく名字名前として見てくれていると分かった時から既に彼に依存していたのかもしれない。
パンを並べ終え商品が入っていたケースを抱えて立ち上がると後ろから肩を数回叩かれた。お客さんかと思い返事をして振り返ってみれば其処には先程から私の思考を蝕んでいたピンク髪が大きなショルダーバッグを提げてにこにこと笑っていた。

「ようやっと気付きました?もーさっきから声掛けてんのにシカトするんやもん、廉造くんショックでしたわぁ」

「……え?れ、廉造?」

「はい。名前ちゃんのイケメンすぎる彼氏の廉造ですよ」

今頃京都と二日酔いに悩まされている筈の廉造が何故か私の後ろにいた。目を瞬かせて硬直する私に対して廉造は真面目なドヤ顔でボケていたが、今はツッコミを入れる余裕もなく私は廉造の胸元に手を這わせた。短い髪を指先で摘まんで引っ張れば痛いと小さな悲鳴が上がったのでこれは幽霊の類ではないらしい。爽やかすぎる笑顔のせいで一瞬よぎった嫌な予感は杞憂に終わり私は安堵の息を吐き出して廉造の髪から手を離した。

「本当に廉造?びっくりした」

「びっくりさせよ思て。始発の新幹線で帰って来てん」

「いいの?ご両親怒ってるんじゃ…」

「あー…」

どうせ勉強足りてへんのやろさっさと帰れ、言われました。がりがりと頭を掻きながら苦笑を漏らしてそう呟かれ私もつられるように苦笑を浮かべつつ心の何処かで成る程と頷いていた。一度夏の期末テストの点数を見せてもらったがまあ何と酷い事。あれでも竜士くんにテスト勉強を手伝ってもらったらしい、廉造に時間を割いても成績の良い竜士くんと竜士くんに教えてもらいながらも見るに耐えないハラハラする点数を連ねる廉造。何故二人は共に過ごしているというのにこんなに差が生まれてしまったのか、学校での廉造が見てみたいと少しだけ思ってしまった。

「名前ちゃん、バイトの後予定あります?」

「んーん、無いよ」

「ほんなら初詣行きません?近くに神社あるて看板見つけましてん」

にこにこと細い目を更に細めて問われ特に断る理由も無いし年末一緒に居れなかった分の埋め合わせをしたくて二つ返事で頷けば、自然な動作で顎を持ち上げられ目を閉じた廉造の顔が近付いてきた。
唇を突き出したその顔を手で覆い軽く後ろに押してやれば冗談での行動だったらしくあっさりと身を引いてくれた。

「当店ではその様なサービスは致しておりません」

店の入口の自動ドアが開きチャイムと共にお客さんが入店してくる。お決まりの文句を口にしながら抱えたケースを片付けるべく歩き出しながら家でね、と小さな声で廉造に向かって囁けば、ほんなら名前ちゃんの家で待機してますとこれまた小さな声が返ってきて廉造は手にしていた荷物を握り直して足早に店から去って行った。

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -