私が廉造と付き合い始めて変わったと言われ始めた。いかがわしい雑誌のモデルだという事を受け入れ、私服を着る際に生足を出すようになったからだ。
もっと自分に自信を持てと元彼に言われじっくり考えた上で結論に至り、どうせ足くらいで気付く人なんて居ないと開き直って足を出す事にした。

以前二人で行った遊園地に塾の授業に行っていた廉造から授業が早く終わったから会いたいというメールが届いたので、早速支度をして路面電車に乗り込み待ち合わせ場所の正十字学園駅へと向かった。
駅に降り立つと塾が終わった後皆で駅まで戻って来たのか廉造の他にも勝呂くんや三輪くん、それに初めて見る塾生らしき女の子が二人居る。
遠くから見ていると廉造がへらへらと笑いながらその女の子に何かを話し始めるも眉毛が特徴的な女の子は無視、髪の毛がボブの女の子は困った様に首を傾けている。ナンパでもしていたのか、がっくりと項垂れる廉造を見てくすくすと笑っていると勝呂くんとぱちりと目が合った。笑って手を振ると勝呂くんが焦った表情を浮かべ後ろから廉造の頭を平手で殴った。うわあ、痛そう。

「何してんねん阿呆か!」

「酷い!さては羨ましいんですね、坊!?」

「ちゃうわ!あっち見ろ、あっち!」

路面電車や車が来ないのを確認して廉造の方へと近付いて行くと、頭を押さえて涙目になる廉造に怒鳴り声をあげて私を指差す勝呂くんにその場に居た他の四人の視線が此方に向く頃には、私はもう廉造の目の前に立っていた。

「ぎゃあ!名前ちゃん…!」

「何かコントっぽかったよ。面白かったからずっと見てたの」

廉造がナンパをする所が珍しくて思わず眺めてしまった。元から女の子が好きなのは知っていたので特に気にしては居ないのだが、廉造はまるで悪戯が見つかった子供のように目を逸らしているし勝呂くんや三輪くんもまるで憐れむような瞳で廉造を見つめていた。

「彼女居るのに女を口説くとかサイッテー」

極めつけは声を掛けていた特徴的な眉毛の女の子の厳しい一言だった。廉造が可哀想だなあと考えているとボブヘアの女の子が私を見て声を掛けてきた。

「あ、あの!志摩くんの彼女さんなんですか?」

「えっ。違います」

「えっ」

「ちょ、名前ちゃん!怒っとる!?やっぱり怒っとるん!?」

真剣な表情で聞いてくるので真剣な表情で冗談を言ったら、とうとう廉造が泣き出してしまったので笑って頭を撫でてやった。瞳をぱちくりさせるボブヘアの女の子と再度向き合うとにこりと笑って自己紹介をする。

「すみません、冗談です。私、廉造の彼女の名字名前と言います。塾の生徒さんですよね?いつもこの変態がお世話になってます」

「あっ、わ、私杜山しえみっていいます。此方こそお世話になられて…ん?あ、あれ…?」

頬を朱に染めて挨拶して来るものの上手く言えずに慌てるしえみちゃんが可愛くて和んでしまう。微笑ましげにしえみちゃんを眺めていると特徴的な眉毛の子が大きく咳払いしてしえみちゃんを制する。

「……神木出雲」

「神木さんね。宜しく」

目を逸らしながらぶっきらぼうに自己紹介した神木さんに微笑んで首を傾けると、しえみちゃんにおいくつですか?と聞かれたので素直に二十歳だよ、と答えると彼女の翡翠の瞳が輝きを増した。

「あ、あの!私お友達あんまりいなくて…良かったらお友達になって下さい!」

「ん、良いよ。喜んで」

宜しくねーと笑ってしえみちゃんの手を握って握手をすると頬の赤みが顔全体に広がってうつむいてしまった。可愛いなあ、恥ずかしがり屋さんなんだね。
しえみちゃんの頭をよしよしと撫でて癒されていると後ろからぶふぉっと吹き出す声が聞こえたので振り返って見ると廉造が鼻辺りを押さえて悶絶していた。

「志摩くん!?大丈夫?お鼻が痛いの?」

「大丈夫、ただ変態こじらせただけだよきっと」

「名前ちゃん酷い…!」

「はいはい。皆は学園の寮に帰るんだよね?足止めさせちゃ悪いしもう行こう」

暑いのに足止めさせちゃってごめんね、と皆に謝ると勝呂くん達は首を横に振り神木さんはふんと鼻を鳴らした。
手を振って皆を見送ろうとすると徐ろに私の前に立った勝呂くんに頭を下げられた。

「志摩ン事、宜しくお願いします。阿呆で馬鹿なんて何かしよったら容赦無くどついてもええので」

「どぇええ!?坊、何やのその言い草!」

「あ、うん。その辺りは任せて。高校の時バドミントン部だったから結構肩に力あるんだあ」

「名前ちゃん!名前ちゃんもノリノリで答えるん辞めて!」

駅の構内へ去って行く勝呂くんと三輪くん。ずっと三人で居たのを私が取り上げちゃったからきっと淋しいんだろうな。私は罪悪感を抱きながら足元でヘコんでいる廉造を見下ろす。
自分が幸せになる時は、誰かが不幸になっている。…何処かで誰かが言っていたのを思い出した。

きちんと正座して落ち込む廉造の膝をサンダルの爪先でつつくとこつんと頭を太股に乗せて来たので、また頭を撫でてやれば何だか犬の様に思えてきて右手を出してお手と言えば左手を乗せて来たのでその手を握って彼を立たせた。

「ご飯食べたいからランチカフェ寄っていい?」

「ん、分かりました」

こうして突然訪れた細やかなデートが幕を開けた。

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