真夏の頃は鬱陶しかった温かいシャワーも秋になればその温かさが身に染みる。夕飯の片付けが終わったらさっさとシャワーを浴びてしまうので、狭いバスタブの中で後ろから廉造にくっつかれながらシャワーを浴びる事はあまり無く気恥ずかしさから私の視線は湯が流れていく排水口へと釘付けになってしまう。

「名前ちゃんふにっふに!あー…幸せやあ」

「私が男に生まれ変わるなら三輪くんに癒し系に生まれたいなあ」

「子猫さんは坊に似とるから予備軍ですよ、変態予備軍」

「アンタが一番変態でしょ」

茶色の髪を纏めて泡で包み込み洗っていく私を泡が飛ばないように浴槽の外へ避難しつつ私の身体をじっくり眺めて来る廉造に溜め息を漏らす。貴方が今やっている行為こそ変態野郎のする事だろうと言えば俺は彼氏なんでええんです、と開き直られてもう変態について触れるのは辞める事にした。
髪を洗い終えシャワーを止めて水気を切った後に廉造と場所を交代していそいそと痛んだ髪にトリートメントを塗り込んでいく。
一番長い所で胸元まで伸びている髪を纏めて結び、先程の舐め回すような視線のお返しに鼻歌混じりに髪を洗っていく廉造の身体をじっくり見つめてやると股間を押さえながら小さく悲鳴をあげられた。其処は見てない、馬鹿。

「股間は見てない。ただその腰いいなあと思っただけで」

「同じですよ、それ…」

「廉造が私のおっぱいガン見するのと一緒なんだし、勿論文句は無いよね」

髪を洗い終えた廉造に頼んでトリートメントを洗い流すのを手伝ってもらう。上からシャワーを持った廉造に湯を流してもらい浴槽へ身体を折り曲げた私はトリートメントを洗い流していく。
身体を洗う時の邪魔にならないように頭のてっぺんで丸めてお団子にすると面白がった廉造がしきりに突いてくるので腹に軽く肘を入れてやった。

「肘鉄砲!」

「ごふっ」

うっすらと、ほんとにうっすらと浮いた腹筋を押さえて悶絶する廉造を他所にスポンジに買ったばかりのボディソープを垂らして泡立てていく。手書きポップの宣言通りスポンジを見る見る内に溢れんばかりの泡に包まれていき、腕に滑らせればふわりと甘いベリー系の香りが漂ってくる。
女の子の好きそうな香りにがっちりと心を掴まれた私は上機嫌で廉造の鼻歌の続きをらー、んーで曖昧に暈しながら口ずさんでいると肘鉄砲の痛みから復活したらしい廉造に再び後ろから抱き締められ、手元のスポンジを奪われる。何事かと上を向けばスポンジを持った廉造の手が私の身体を這い回る。

「俺が洗ったります」

「下心すけすけだし、もう洗ってるし」

「其処まで変態やないですよ」

そんな事を言いながらしっかり私のおっぱいを揉む廉造はやっぱり変態だと思う、気に入ってくれているようで何よりだけど。腹や腰を這い回る廉造の手に身体を委ね、トリートメントを洗い流した後の水切りが足りなかったのか髪を伝って額へと垂れてきた水を拭った。


ふ、と目を開けると視界は真っ暗で一瞬自分がどんな状況にいるのか忘れてしまう。直ぐにああ、自分は夢を見ていたのかと理解し馬鹿馬鹿しいと自嘲して身体を起こす。
見ていた夢がやたらリアルだったのは数時間前に同じ事をしていたからで。あの後お返しに廉造の身体も隅々まで洗ってやり二人で廉造の学校の宿題に四苦八苦した挙げ句やってられるかと匙を投げて早々にベッドに潜り込み今に至る。廉造の身体を乗り越えて台所に向かいグラスに水を注いで口に含む。

壁に寄り掛かってしゃがみ込み床にグラスを置く。前の彼氏の時より満たされている筈なのに、何だか物足りなさを感じる。
手を繋いだ。抱き締めたし抱き締められた。キスもした。セックスもして、愛を囁きあった。くだらない事で笑いあって、些細な事ですれ違ったりもするけど互いに面倒臭いのは嫌いだから口論という口論はしていない。
何処から見ても順調な仲なのに、私の心の中には落としたピースが見つからずいつまでも完成しないジグソーパズルのように小さく、だけど大きい虚無感が居座っていた。理由は分かっている、でも廉造には言えなかった。廉造の事を全部知りたいなんて言ったら彼がどんな反応をするか。「面倒くさがる」か「曖昧に濁す」かどちらかしか浮かばなかった。
窓際のカーテンの隙間から漏れる青白い月光を眺めながらグラスを持って傾けると口内を満たすカルキくさい水道水に自然と眉間に皺が寄る。

「……まずい」

グラスを持った儘膝に顔を埋めて小さく呟いたって、口の中に残った不味い水の味が変わるわけない。
知ってた?廉造。大人ぶるのって凄く辛いんだよ。

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