ゴオゴオを音を立てるドライヤーで廉造のピンクブラウンの髪を撫でて乾かしていく。水気が大方飛んだ所でドライヤーのスイッチを切り指で廉造の髪をやわやわと触って短い毛の感触を楽しむ。暫く堪能してから終わったよ、と声を掛けるとおおきにー、と間延びした声が返って来た。ドライヤーのコンセントを脱ぎながら暑さに本腰を入れて来た夏の気候に合わせてTシャツからタンクトップにプチ衣替えした廉造をまじまじと見つめれば、視線に気付いた廉造が顔を上げて私と目を合わせ何ですかと言って首を傾けた。

「何か廉造にタンクトップって似合わない。そういうのって勝呂くんとかが似合いそう」

「彼氏の前で他の男の話するとか!廉造くん悲しい!」

「床で寝たい?」

「勘弁して下さい」

廉造が来る前に飲んでいたお酒の缶を水洗いしながら頭を抱えて嫉妬の感情を露にする廉造に笑いを漏らせば、勘に触ったらしく台所にやって来て後ろから抱き締められた。ええ匂いやあ、なんて言って私の肩に擦り寄る廉造にアンタも今日同じ物を使って身体洗ったでしょうと心中ツッコミを入れつつ背中に身長176センチの大きな子供をぺたりとくっ付けた儘、冷蔵庫の前へと移動して今朝作っておいた麦茶のボトルを取り出すと廉造が私の背中に頭を乗せた儘手を伸ばしグラスを一つ手に取って私に渡してくる。

「飲む?」

「勿論」

グラスいっぱいに麦茶を注ぐとまず私が口を付けて半分程嚥下し後ろにいる廉造に差し出すと、グラスを受け取り残りをごくごくと飲み干していく喉の音がすぐ耳元で響く。私の家にちょくちょく来るようになってからというものの週末は廉造と二人三脚して生活しているような気がしてならない。
お泊まり明けの朝食に白米に豆腐の味噌汁、焼いたウインナーに目玉焼きを出した時食事の途中で醤油を取ろうと箸を止めた私を見た廉造がさっと醤油瓶を差し出す、なんて事は日常茶飯事で。本来廉造が持ち合わせている女の子への気遣いが発揮されているのかは分からないが、まだ出会って三ヶ月だと言うのに熟年夫婦をやっている気がするのは私だけだろうか。麦茶を飲み終え器用にグラスを持った儘片手で蛇口を捻りグラスを水洗いし元の場所へと戻す廉造を見上げた。

「何か私達夫婦みたいじゃない?」

「ぶふっ!?」

考えていた事を其の儘口にすれば頭上で廉造が盛大に噴き出した。汚い、と文句を言ってベッドに逃げると顔を真っ赤にした廉造が台所で固まっていた。変態なくせにウブな所は童貞を捨てても相変わらずらしい。

「名前ちゃんと夫婦…若奥様…昼下がりの団地妻…!」

ベッドに寝転がって微睡んでいる間にも夫婦という単語から始まった廉造の妄想はどんどん広がっていく。昼下がりの団地妻、エロい漫画や熟女系のエロ雑誌によく載っていそうな単語だ。自分はしがないサラリーマン、私は専業主婦、子供はおらず安月給の自分の給料を遣り繰りして何とか生活していっている…という生々しい設定を立てて一人楽しげに妄想を広げていく廉造を余所にタオルケットを被った私に突如廉造がアカーン!と叫びなから飛び掛かってきた。

「う、わっ!煩い、馬鹿!」

「団地妻の名前ちゃんに新聞契約に奔走する若い男が"もしかして昔エロ大王でモデルやってたくるみちゃん?わあ俺すげえファンだったんです"とか言いながら家に上がり込み其の儘あんな事やこんな事に…!」

「なりません」

「ズバッと一刀両断…冷たい!まるで氷のようや!俺への愛は何処へ行ったんですか!!」

「つかれた、ねむい、おやすみなさい、ぐーぐーすやすや」

「ハハハ…さっきまでちんぽ言うとったとは思われへん…」

もう抜けてしまったとは言え酒を飲んでいたし、久しぶりのセックスでかなり体力を消費してしまった。目を閉じて枕に頭を沈めるとパッと電気が消えて廉造が隣に潜り込んで来た。塾の復習をしろと腹を小突くも知らない振りをされて私の身体にしっとり濡れた剥き出しの腕を回して来た。冷房の涼しい風と廉造の暖かい体温がぐちゃぐちゃに混ざりあって、風邪を引いてしまいそうな気がするも冷房を止める気も廉造を引き剥がす気も無かった。単に眠たかっただけなのだが。

「そういえば、何でゴムなんか持ってはったんですか?」

「んー…夏休みに入ったら逆レイプしてやろうかと思って」

「恐ろしっ!ほんま今日で良かったわぁ。名前ちゃんって見掛けによらず積極的なんですね」

「童貞にはこれ位が丁度良いのです」

ピロートークも程々に廉造の胸に顔を埋めてタオルケットに潜り込むとくすりと微笑んだ廉造の手が後頭部でゆっくりと上下して私の頭を撫でてくれた。その手の動きは眠りへと誘っているようで、私は直ぐに意識を手離して眠りの海へと飛び込んでいった。

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