部屋の中には私の弾んだ呼吸とエアコンが涼しい風を運ぶ音だけが響いていた。コンドームの口を縛って燃えるゴミに捨てて視線を下ろすと、廉造は顔を腕で覆っているせいで表情は見えなかった。彼が今感じているのは、おそらく私より先にイッてしまった事での羞恥と悔恨なのだと思う。

「廉造、そんなに落ち込まないで」

「もうアカン、まさかのまさかやで。…俺もう嫁に行けへん…」

顔を隠す腕を解いてみれば涙を浮かべた廉造がめそめそと後悔の言葉を並べていく。嫁って、アンタは女かと内心ツッコミを入れる。
何だかんだで私も気持ち良かったのだからそんなに気にする必要は無いし、廉造が私の中で果ててくれたという事実もまた嬉しかった。私は元カレに仕込まれた自覚有りの淫乱、廉造はキスからして初めての経験だったのだから最初からバランスが合うわけがない。私も彼も分かっていた事実なのだから、廉造が落ち込む理由がいまいち理解出来なかった。
私はだらしなく開いた儘だった足を閉じてまじまじと廉造の顔を見つめて溜め息を吐き出した。顔は良いのに元来のスケベな性格と勝呂くんや三輪くんとつるんでいたせいで未だに童貞な事が信じられなかった。勝呂くんと三輪くんが居なければ今頃彼は毎日のように女の子をはべらせてはデートに行き、人気の無い場所でこっそりキスして愛を囁きあわよくばお持ち帰りしていたであろう。私も周りの環境さえ違っていれば、大学にも行かずエロ本のモデルという人生を歩まなかったのだろうか?
今まで歩んで来た道を振り返って感傷に浸る気は無かったが、廉造のような未来有る子を見ていると何となく同じ歳の頃の自分を重ねてしまった。


兎に角今は廉造のご機嫌取りをしなければいけない。廉造の腕を引いて身体を起こさせると私は膝立ちになって彼の頭を胸元にぼすんと埋めさせた。

「…ん…んん!?」

「ただタイミングがあってないだけだよ。私もあと三擦り半くらいでイけたし」

目まぐるしい視界の変化のせいで事態が掴めていない様子の廉造にフォローを出して罪悪感を薄めていく。ぷは、と声を出して顔を上げた廉造の顎を乳房でぱふぱふと挟んで包み込む。顔を胸で挟まれているのに感動しているらしく硬直している廉造はやっぱり初で可愛いなあと思った。

「…回数重ねたらちゃんとタイミング合うようになるから。ね?」

首を傾けて問い掛けるとこくりと頷いてくれた。取り敢えずトラウマ回避は成功出来たらしい、浴室への移動を促して廉造の上から退くと彼があからさまに何で?と言いたげな表情を浮かべる。そんな彼ににこりと笑ってテーブルの上に置いていた小箱からコンドームを一つ摘まみ上げた。

「二回目やってコツを掴めば次からは安心して出来るよね」

そして私は心の中で決意する。明日は産婦人科にピルを貰いに行こう、と。

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