俺はいつも通りこの部屋の定位置であるベッドを背凭れ代わりにして座っとって、その前には酎ハイの缶を持った名前ちゃんがくすくすと笑いながらくっついとる。肩が揺れる度に魅惑のマシュマロ様がふるんと揺れて俺の胸元を掠める。

「れんぞうのにおいがする」

首筋に鼻先を擦り寄せうっとりとした声で囁かれカチコチに固まった俺の身体が更に硬直する。下に目を向ければ理性が弾けそうで頭の中が真っ白に塗り潰され思考能力が低下していく。

「名前ちゃん、ちょっと離れん?近すぎやないかなあと廉造くんは思います」

「やだ。れんぞうもぎゅーってしなさい」

空になった缶を床に転がして腰に腕を回した名前ちゃんがふわふわした声色で命令してくる。酔っ払いの命令なんて…と不満に思うものの、名前ちゃんに命令されるんもそんなに悪ないなと思い直してつい背中に腕を回してしまう。俺はマゾか!

「あのね、ずっとかんがえてたの」

暫く抱き合うだけで何もする事が無い俺は電源が点いた儘のテレビから流れるバラエティ番組を観とる、唐突に俺に抱き付いた名前ちゃんが儘ぽつりぽつりと話し始める。眼下で茶色の髪の毛がもそもそと動いて俺の腕を解く。きゅ、と互いの片手を絡め所謂恋人繋ぎの状態になると繋いだ手を揺らしながら名前ちゃんが俺を真っ直ぐ見上げる。

「れんぞうのはじめて、ぜんぶわたしにちょうだい」

にっこりと口角を上げて笑いながらそう言い放った名前ちゃんは、其の儘目を閉じて俺に顔を近付ける。長い睫毛が見開いた俺の目に入るんやないやろかって位に近付いた時、俺の唇にふにゅっと何か柔らかいものが当たった。其れは離れてはまたくっつき、時折ちゅっちゅっと濡れたリップ音を立てて俺の耳を侵食していく。
柔らかいものの正体はもう分かってしまっているものの、答えを出してしまったら後戻りが出来ないような気がして息を止めた儘思考を放棄して目の前の現実からも目を背けた。



「ん、…ンッ」

気が付けば繋いでいた筈の手は解かれ、俺の後頭部は逃がさないとばかりにしっかり固定されとった。目の前で焦げ茶色の瞳を伏せて俺の唇を貪る名前ちゃんは時折甘い声を漏らし恍惚とした表情を浮かべとる。結局、エロと可愛い女の子に染まった俺の思考は勝手に働き俺の唇を塞ぐのは名前ちゃんのそれで、今唇の輪郭をなぞるように行き来するのは彼女の舌なのだと理解させる。

「れんぞ、しただして」

促される儘に薄く唇を開いて舌を出すと酎ハイのせいかやけに冷たい彼女の舌かぴったりとくっついてきた。ざらりとした感触の中に甘苦いアルコールの味がして思わず目を細めた。まるで何か別の生き物みたいに絡み付いてきて舌を吸い上げてきはる。舌を絡め始めてから擽ったいような、むず痒いようなぞわぞわしたものが腰から徐々に広がっていくのを感じる。

「んん…!」

これ、色々とアカンんちゃう?ぞわぞわが腰から前に移動してくるのが分かって思わず声を出そう思たんに舌が絡め取られていて上手く声が出せへん上に鼻に掛かったような自分の声に驚いてもうた。
ただ自分の舌と名前ちゃんの舌がくっついて擦れとるだけやのに、心臓と股間もどくどくと脈打っていてどうしていいのか分からなくなってしまう。ぎゅうと目を瞑ってひたすら濃厚なキスに耐えとったら、軽く舌を甘噛みされてやっと唇を解放された。
名前ちゃんは何処か優越感に浸っとる視線を肩を揺らして酸素を取り込む俺に向ける。その瞳は酔っ払っている時のようなとろんとしたものではなく、しっかり俺に焦点を合わせたいつもの瞳。え、ええ、まさか。

「名前ちゃん…酔い、醒めた?」

「うん。お陰様で」

にこりと微笑んだのはいつもの名前ちゃんなのにその目は獲物を狙う猛禽類のようで、雰囲気が変わった彼女に俺の気持ちはますます高ぶるだけやった。だから、俺はマゾか!

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