02

ガラガラ、ガラガラ。
歪な車輪がくるくると回っては音を立てる。
ゆったりとした足取りで収穫物を入れた父お手製の手押し車を押して食堂を目指す。

私は今正十字学園の敷地内を歩いている。

手押し車を押す手には薄いピンクの手袋を篏めている。これは私が住む村からこの学園へ出荷する為に理事長のフェレス卿が作ってくれた物。
防犯意識、というか空き巣や泥棒とは無縁の小屋や自宅の鍵には錠前が無いせいで此処では重要な役割を担う"鍵"が使えないのだと言っていた。この手袋は篏めて何処でも良い、扉を開けばその向こうは学園という不思議な力を発揮してくれる。
最初は作物は配達してもらうから手袋は受け取れないと断ったものの、貴方はもっと人と接するべきですとフェレス卿に上手く言いくるめられてしまった。

「おはようございます。食材を届けに来ました、名字です」

「あらあら名前ちゃん!今月も有難うねぇ」

手押し車を止めて食堂の裏、厨房の扉を開き中を覗くとランチの仕込みをしていたおばさんが出て来た。このおばさんは初めてこの学園に出荷に来た時に右も左も分からない私を食堂へ案内してくれた上に、出荷の手続きや荷下ろしの手伝いもしてくれた親切な人だ。私にしてはこの一年でかなり仲良くなれた気がする。

「キャベツ、可愛く実ったわねぇ」

手押し車の中の野菜の一つであるキャベツを手に取り外皮を剥いてにこにこと笑うおばさんにありがとうございます、と言葉を返す。
両親以外と滅多に口を聞かない私がぎこちなくではあるものの、言葉を交わす様は何処か他人事の様に思える位におばさんはまるで娘のように接してくれる。

きっとおばさんの実家には私と同じ位の歳の娘か息子が居るのだろう。優しい笑顔を浮かべるおばさんを見ていると私も自然と口元が緩む。
一緒に手押し車で持ってきた野菜や卵を下ろし、最後に牛乳が入った金属製の瓶を二人で協力して運び込めば出荷終了。
代金は後日出荷リストと共に郵便局から届く手筈になっているので私の仕事は此処まで。

おばさんに手を振りつつ別れると手頃な扉を探しついでに学園内を歩き回る。外見はあまり好みではないが、長い時間を掛けて風化が進み蔓や草が生えた外壁等はどこか心惹かれる物がある。
空の手押し車を引いて適当な扉に手を掛ける。扉の向こうは校舎の中…ではなく私の村。見慣れた風景、この十五年間私の故郷。本当に不思議な手袋だなぁ、そう考えながら扉を潜った。

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