・after 06 シュラ

一年ぶりに見た名前は見るに耐えない姿になっていた。あの赤い目を長い前髪で隠して、人前に立つだけで真っ青になっていた。
きっとあの事件の後からまともに人付き合いは出来ていないのだろう。前より幾らかたくましくなった腕回りからして農家である実家の手伝いでもしていたか。
其れにしても何故メフィストの野郎は名前を今更この塾に連れて来たのか…。

食堂の横に置かれた手押し車を引いて実家に鍵穴は無いからとメフィストお手製の手袋を篏めた名前が適当な扉を開けると扉の向こうは一年前に見た景色と同じものだった。牛小屋か鶏小屋から出て来た先の景色だろうか、時が止まったかのような草木が生い茂る田舎の村にアタシは目を細める。
名前はずっとこの時が止まったような閉鎖的な場所で一生を過ごしていくのだろうか。そう考えると幼い頃の自分を思い出して胸が詰まる。

「名前」

「……何ですか」

扉の向こうへ行こうとする名前を呼び止めると首を傾けて此方を向いた。長い前髪に隠れた赤い瞳を真っ直ぐ見つめれば直ぐに逸らされてしまった。

「また塾見に来いよ。次、お前に会う時はアタシもう"山田"じゃないだろーし」

にゃはは、と笑ってみせると塾という言葉に僅かに反応を示したらしく嫌そうに口元がへの字に歪む。人前に出るのが嫌ならアタシが慣らしてやればいい。あの時は時間が無くてあまり傍に居てやれないし、アタシには監査官っつー面倒くさい事極まりない仕事があっけど。時間があれば名前の傍に居てやりたいと思う。
お前はもっと外を知るべきだ、化け物だなんだと罵るしか能のない村人達なんざ置いて此方に来ちまえ。そういう意を込めて頭を撫でてやれば擽ったそうに肩を竦められた。

「ほんじゃ、まったなー」

頭から手を外しフードを被ると踵を返して己の拠点へと帰る。この所塾は全くと言っていい程つまらんことこの上無かった。名前が入ってくれりゃ少しは楽しくなりそうなんだけどなぁ。そう思いながらアタシはまた"山田"としての日常へと戻っていくのだった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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