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太陽がもたらす穏やかな一時。
爽やかな梅の香りに誘われるように仲良く寄り添い合う様に緑褐色の鶯と茶色の雀が太くしなやかに伸びた枝に留まっている。
毎年見るその光景はまさに春を感じさせるもので、時折歌うようにピィ、チチチッと頭上から零れる鳴き声に思わず口元を緩めてしまう。

この田舎ではこうやって間近で鳥と触れ合う事も出来るし、もう少し暖かくなれば家の横の大きい桜も満開になる。そうしたら村の人達が集まって私の家で大きな宴を開く。
都会は便利だ何だと言って若い人達は次々に村を出て行くけれど、一方の私は田舎が…いや、この村が好きで堪らないのだ。

「来月には田植えかぁ…お父さんの湿布用意しないと」

鶏小屋に入り手前から奥まで伸びる細長い餌箱に飼料を入れていきながらしみじみと呟く。初夏の田植えは父が腰を痛める恒例の行事でもある。でも家族三人で笑い合いながら田植えをする父は新たな学び舎へと向かう新入生のような希望と未来に満ち溢れたような、そんな表情をしている。きっと頭の中で黄金色の稲穂が広い田んぼ一杯に並ぶ景色を想像しているのだろう。
農業は楽しい事ばかりじゃない。稲や動物には常に気を配らないといけないし、台風の時期は家か小屋の何処かが必ず壊れる。細々とした暮らしを送っている我が家は重機を買う予算も無く、毎日が力仕事。鶏に餌をやって卵を収穫したら、次は牛小屋に行って乳を搾って…。
自然や生き物との共存は生温い覚悟では出来ない。この生活を始めて父なる山が私に教えてくれた事だった。

「明日は出荷の日かぁ」

小屋の裏に回り鶏卵を籠に入れながら予め入っていた明日の予定を頭に浮かべる。お得意様に牛乳と鶏卵、野菜を出荷しに行く日だ。
かれこれ三年程の付き合いになるものの未だに彼処は慣れない。父も母も都会や彼処の雰囲気は落ち着かないと言って彼処への出荷を全て私に任せている。かく言う私もあの独特の雰囲気にはやっぱり慣れない。
土の感覚が無い、コンクリートジャングル。何処かの国を彷彿とさせる出で立ちの校舎と奇妙な格好の理事長。


私は明日、正十字学園へ行く。

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