05

暫く肩を押されて廊下を進むととある教室の前にやってきた。呼ぶまで待っているように、と告げて中へ入っていくフェレス卿を見送るとうろうろと視線をさ迷わせる。廊下や教室は所々古ぼけていて作られてから相当な年月が経っている事が伺われる。しかし先程廊下に出た時、そんなに古くないように見えた。理事長の部屋だから丁寧に管理されているのだろうか、なんて余計な考えていると扉の奥から入りなさい、とフェレス卿に呼ばれる。
息を吐き出し一拍置いて扉を開けると片手で数えられる位の生徒が此方を見ていた。塾だからもっとびっしりぎっちり居るのだと思った。
よたよたとよろめきながらフェレス卿の隣に立つとぽんと肩に手を置かれる。

「彼女が先程話したこの祓魔塾に興味を持っている名字名前さんです。今日一日貴方がたの授業を見学させるのでくれぐれも失礼のない様にお願いしますよ」

私は塾に興味は無い。ちらりとフェレス卿を見遣ると頑張って下さいね、と耳打ちされて彼はさっさと去ってしまった。
壇上に立つ眼鏡を掛けた男性に目を向けると好きな席に座る様に促されたので、迷う事無く一番後ろの席に座った。
一年ぶりのスカートに慣れず裾を引っ張り出来るだけ足を隠す。ふと斜め前に視線を移すとフードを目深に被った人が此方を見つめていた。そんなに私のスカート姿は目の毒だっただろうか、なんて考えているとフードの人はちょいちょいと手招きしてきた。眼鏡の人が授業を再開し黒板に何かを書いている隙にフードの人の隣に移動する。

「お前、何処から来た」

聞こえるか聞こえないかの小声でそう問われた。ズボンを履いているのに女性っぽい声だった。私の容姿はそんなに珍しいものだろうか。黒髪だし肌の色は他の人と対して変わらないし…訛りが強い村に住んでいるが幸い私は標準語だ。

「この近くでは、ないです」

「何故此処に来た」

「な、成り行きです」

「此処がどんな場所か知っているのか」

具体的な地名を言っても分からないだろうと曖昧に答えると矢継ぎ早に何度も質問された。
私はもしかして招かざる者だったのだろうか。余所者を嫌う村の風習を思い出す。あの時も村の人達はいきなり現れた祓魔師に警戒心ばかり抱いてたっけ…。

「すみません、正直に言うと分からないです」

でも、と壇上に立つ眼鏡の男性を見遣る。そういえばあの人が着ているコートには見覚えがある。


―村の風習

――突然来た余所者

―――一年前の、あの…
もう大丈夫―

怖いのはもう居ない――

でも、その目は多分―――


―― 僕は ――



「祓魔師…」

ぽつりと呟くと知ってるんだな、とフードの人が小さく囁く。祓魔師、エクソシスト、えくそしすと。知っているも何も、祓魔師は去年私を助けてくれた人だ。悪魔に襲われた私の村を救ってくれた人。

じり、と目の奥が痛むのを感じて前髪の上から瞼を軽く押さえる。フェレス卿は何を考えて私をこんな場所に連れて来たのだろう。いや、あの人はきっと何も考えていない。私はただの暇潰しに選ばれただけの人間なのだろう。黙った儘何を言わない私にあんなに質問攻めをしていたフードの人は、其れ以上何も言おうとしなかった。

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