ふあ、と欠伸をすると、向かいに座る伊作も同じように、大きく口を開けた。
「おい、真似するな」
軽く足を伸ばし、つま先が軽く伊作の脛に当たる。
「ごめんごめん。欠伸がうつった」
伊作の目尻には、うっすらと涙が溜まっていた。そのへにゃりとした顔を見ていると、また欠伸が出てきそうで、目線をノートに戻した。

冬休みに学校の図書館で勉強する生徒は少なく、というか俺と伊作の他には誰もいなくて、暖房とストーブを「強」にして貸し切り状態だ。
夏休みは席取りに苦労するほど人がいたのに、なんで冬休みはこんなに人がいないんだ。と素朴な疑問を伊作にぶつけてみたら、やつはちょっと冷めた目をして、「もうみんな余裕がないんだよ。身支度して、移動する時間があるなら英単語を暗記するよ」とさもわかりきった風に言い捨てた。「あと、雪国だから」

窓の外は、まるで雨のような勢いで絶え間なく雪が降っている。帰りのことを考えると憂鬱だ。
何故わざわざ身支度して、雪の中歩いてここまで来て勉強しているんだろう。ああ、そうだ。伊作が言ったからだ。「学校で一緒に勉強しよう」って。それ以上の理由は思いつかなかった。

見ているだけで凍えそうな外に対して、図書館は暖房とストーブが効きすぎているのか、頭が熱くて上手く集中できない。
「よし、一旦休憩する」
文字が二重に見え始めたところで、ノートを少し乱暴に閉じた。伊作もだらしない姿勢で目を滑らせていた参考書をパタリと閉じる。
「空気の入れ替えした方がいいよ。この部屋、悪い意味で暖かい」
伊作はそう言ったものの、窓を開けようとする素振りは一切なく、スライムのように机に張り付いたままだ。その姿に、僅かに残っていた「やる気」を吸い取られたようで、今日はもう勉強しないだろうな、と悟った。
「あーあ。早く受験終わらねーかなー」
これほど春を待ち望んだことは初めてだった。
「受験終わったら、まず何する?」
「なんだろな。思いっきり寝る、とか?」
「小さいな。でもなんかわかる気がする」
伊作が懐かしそうな顔で頬を緩めた。何を思い出しているのだろうか、彼の頭の中を覗かない限りわからないが、なんとなく俺と伊作、二人の思い出だろうな、と予想はついた。
伊作とこうやって会話をするのも、あとどれ位なのだろう。

この春、俺と伊作は別々の大学に進学する。




130109

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