容赦ない日差しが僕の皮膚をじわりじわりと焼いている。今朝焦がしてしまったトーストはこんな気持ちだったのかなと、どうでもいいことが頭に浮かんで、すぐに消えた。
「暑い」
隣を歩く留三郎が、吐き出すように言った。シャツを肩の方までたくし上げ、いつも真っ直ぐに伸びている背中は、猫のように曲がっている。その額から、汗が一滴したたり落ちた。
「暑いって言うと、本当に暑くなるからやめよう」
最早、夏の直射日光の下でこんなことを気にする方が暑苦しいかもしれない。しかし風鈴の音を聞いて、ほんの気持ち程度涼しくなるように、暑いと言われれば体内の温度がじわりと上がった気がするのだ。
一体なぜこんな暑い日に外に居なければならないのだろう、と大げさに声を張り上げて言いたかったがその答は自分でも重々承知していた。自業自得だということも。
「補講、あと何日だっけ」
「明日とあさって行けば終わりだよ。留三郎はね。僕は数学の補講も行かなきゃだけど」
期末試験が月曜から始まるから土日は留三郎の家で勉強合宿をしようと言いだしたのがいけなかった。結局、薄々予想していたことだが、勉強には一切手を付けず、土手で花火をしたり海で遊んだり一緒に寝たり、大体のイベントは夏休み前に網羅してしまい、テスト当日は遊び疲れてフラフラの状態で挑んだのだ。結果はもちろん散々で、夏休みに入ったというのに二人して英語の補講と、僕に至っては数学の補講にも行かなければいけないはめになってしまった。
補講が終わるのはいつもお昼前で、炎天下の中をだらだらと歩く。普段は留三郎の自転車で二人乗りをしていたが、あの日、花火をした帰りに暑くてコンビニで休憩をしていたら、どっかの誰かに盗まれてしまった。

汗で背中がじっとりと濡れ、シャツが体に張り付く。黒のスラックスを履いた下半身は最悪だった。早く家に帰って脱ぎたいが、足がなかなか進んでくれない。
頭がぼうっとして何もかもがどうでも良くなった。遠くに蜃気楼が出て建物が揺らめいていても、特に気にならず、隣で留三郎が自販機でコーラを買い、それを激しく振りだしても、ただそれを横目で見ているだけだった。
「なにしてんの」
10秒程、留三郎の怪行動を凝視して、段々おかしいことに気づく。
「伊作、お前顔がヤバいぞ」
留三郎はさらりと話をそらし、コーラの缶を僕の額に当てた。そこから細胞が生き返ったかのように目が覚めて、二、三度瞬きをした。遠くに蜃気楼が出ている。
「留三郎、蜃気楼だ」
「暑いからな」
留三郎の手の中にあるコーラの缶は、今にも爆発するのではないかと思うくらいパンパンに膨らんでいた。ほら、あんなに振るから。と小言を言っても、彼は何か企んでいるような顔をするばかりだ。そして、おもむろにプルタブに指を掛けた。
「ちょっと、留三郎!」
慌てて止めようと手を伸ばしたが、留三郎がプルタブを引く方が一歩早かった。その瞬間、茶色の水が勢い良く天まで吹きだし、良い匂いのする水飛沫が僕の髪やシャツに降ってきた。留三郎の愉快そうな軽い笑い声がすぐ近くで聞こえる。コーラが光に反射してキラキラと輝いた。
「涼しいな」
コーラに濡れた部分は、砂糖でベタベタしている。不快感を露わにしたが、何故か彼の行動が憎めなくて、中途半端な顔をしてしまった。
「まあ、さっきよりはね」
怒っているのか喜んでいるのかわからない曖昧な僕の態度に、留三郎もまた反省しているのかしていないのかわからない顔で、僕を一瞥し、缶に残ったコーラを飲み干した。
「あーあ、こんなヤツに数学の点数負けたのか」
「数学は英語より簡単だぞ」
「そんなことよりお腹すいた」
「うちに素麺あるけど」
「食べてく」







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