6は+竹谷


学校の中庭の木の枝に、半分に切った蜜柑を刺すとどこからともなく小鳥たちがやってくる。小さな体で蜜柑を啄ばむ姿はかわいらしく、今では小動物好きの女子や先生たちが昼休みに見に行くほどとなった。ただ、時々「中庭を通ると必ず鳥のフンが落ちてくる」という苦情が来た。しかしごく少数の意見なので無視を決め込んでいる。
「あのさ、鳥の巣箱を作ってあげればいいんじゃないかな」
同じクラスの雷蔵の声が下から聞こえた。丁度脚立に登って木の枝に蜜柑を刺していたところだったので、上手く聞き取れなくて「何て言った?」と聞き返す。
「巣箱を作ればもっと賑やかになると思うよ」
先程より少し大きな声が返ってきた。「ああ、いいかもしれないな」春になってもっと賑やかになる中庭を想像する。
「だけど、巣箱ってどうやって作ればいいんだ?」
我が生物員会には「買う」という選択肢はない。ただでさえ「生物委員会っていらなくね?」と囁かれ、飛びぬけて予算が少ない中切り詰めて頑張っているのだ。
「うーん、食満先輩なら作ってくれそうだけど」
「なるほど。その手があったか」
面倒見の良いあの先輩なら二つ返事で引き受けてくれるだろう。俺がそう思った通り、放課後に食満先輩の教室に行って頼み込むと、快く引き受けてくれた。
「ああ、確か余っていた木材が倉庫にあったな」
「ありがとうございます!助かりますよ」
材料までも用意してくれるとは。
「でも生物委員会が鳥とは珍しいな。いつも虫とか蛇とか追いかけまわしているイメージがあったんだが。ほら、昨日だって」
食満先輩は、昨日起きたヤマカガシ脱走事件のことを口にした。毒蛇に分類されるので脱走したと判明したときはちょっとした騒ぎになった。すぐにガラスケースの下でとぐろを巻いているのが発見され、事なきを得たのだが。
「生物委員会が飼っていたヤマカガシが…」
そこですかさず訂正を入れた。
「違います。『孫兵が飼っていた』です」
「同じようなものじゃないか」
「全然違いますよ」

倉庫で眠っていた木材をかき集め、「さてやるか」の声とともに食満先輩は腕まくりをした。そのまま木材の寸法を測り始める。そこで自分の出る幕がないことに気付いてとりあえず花壇に腰かけた。
食満先輩は手際よく黙々と作業を進めている。遠くでカラスの鳴き声が聞こえた。
「あー、えっと食満先輩はチョコとかもらいましたか?」
軽い暇つぶしの気持ちで声をかけた。最近の男同士の話題と言えばこれが定番である。しかしそれを聞いた先輩の顔がわかりやすく曇ったので自分が地雷を踏んだことに気付いた。
「ああ、まあ、もらった」
「…え?」
「もらったんだけどな、もらっている所を見られて今ケンカ中なんだ」
「先輩、付き合ってる人いるんですか!?それなら他の人からのチョコは受け取っちゃ駄目ですよ!」
予想の斜め上の答えが返ってきて思わず大きな声が出てしまった。しかし付き合っている人がいるのはなんとなくわかっていた。こんなに面倒見が良いイケメンだったら俺も今頃なあ、なんてありもしないことを想像する。
「下心があったわけじゃないんだ。あいつもチョコが好きだから二人で食べようと思ったんだ」
「先輩、それじゃあ恋人さんにもチョコをプレゼントしてくれた人にも失礼ですよ。そこはハッキリしないと」
チョコも恋人もない世の男たちを代表して、少し強めに言う。食満先輩は大きなため息をついてうなだれた。
「そうだよな、最低だよな」
「早く謝るべきですよ」
「…帰ったら電話して謝る」
「そうしてください」
食満先輩はまた大きく息を吐き、空を仰いだ。よく蜜柑を啄ばみにくる小鳥が小さな羽をばたつかせ横切る。どこか楽しそうにも見えた。
「そうだ、あいつが言っていたんだけどな」
あいつ?と口にする間もなく先輩は続ける。
「中庭を通ると必ず鳥のフンが降ってくるんだとさ。じゃあ通るなって話だけど保健室へ行くにはあそこが一番の近道らしい。どうにかならないか?」
「はあ、そればかりは…生理現象ですし」
「だよな。とりあえず傘でもさしとけって言っておく」
これは多分善法寺先輩のことを言っているのだろう。しかし何故このタイミングで?
ふと雨でもないのに傘をさして中庭を突っ切る善法寺先輩を想像してしまった。シュールすぎて周りが笑っているのが想像できる。しかし今目の前で几帳面に採寸を再開しているこの人は決して笑わないんだろうな、となんとなくだが強く確信した。












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