初恋は檸檬の味がするか
乗るは男、乗られるは少女。
その少女の頬は赤く色付き、息は熱を持って吐き出される。未熟ながらも発達した胸元は、苦しそうに上下していた。
畳に背を預け、上から組み敷かれ、片手を封じられながら――少女はまだ、諦めていなかった。自身に月影を落とす美しい敵を睨みつけ、まだ自由な片手で最後の抵抗を試みる。
「し……き、がみっ!」
良く通る透明な声に、男は口角を吊り上げた。余裕を持ちながらも素早い動きで、少女の唇を舐め上げる。
「ぅなっ! なにす……っ」
鼻に掛かった高い声を、男は己の口内に閉じ込めた。その血に似た目玉に獣の色がよぎったことを、苦しさ故に目を閉じてしまった少女は知る訳もなく。
握りしめた最後の切り札も遥か遠くに飛ばされ、両手も完全に拘束された、という最悪の事態に少女が気付いたのは、解放された唇に痛みを感じてからだった。
「アホ! 妖怪! セクハラ! 滅したる!」
いつ喰われてもおかしくない、そんな状況にあって未だ抵抗を止めようとしない少女に、思わずため息が出る。手が使えなければ口。その考えは分かるが――なんと言うか、色気の欠片もない。つい先程なにをされたのかさえ、忘れているのではないか。セクハラという言葉は知っているのに、なにゆえ。
考えたとも言えない程の短い時間で、答えを導き出す。
露骨に言う。それが一番手っ取り早い。
「ゆら」
「な、なんやねん。負けへんで!」
「……何に?」
「なにって――ガンの飛ばし合いやろ?」
他になにがあるん。
さも当然のように返された言葉に、本気で頭が痛くなる。他しかねぇよ、という心の叫びはかろうじて飲み込んで。
「いろいろあるな。たとえば」
「たとえば……?」
答えを求める色を宿した瞳に気を良くして、知らず知らず口元が緩んでいた。それに反応したのか、手を握り締めるのが押さえつけた手首から伝わる。気づかないふりをした。否、気にしている余裕は、正直なかった。
「――濡れ事、とかな」
拳を強引に開かせ、指を絡める。
頬を染めたりしてくれていればなお良いと、頭の端でぼんやり思った。