我のみやあくがれし
食べてくれる人の居ない晩御飯というものは、時間を込めただけ、気持ちを込めただけ、捨てる時の虚しさが大きくなる。
時は既に真夜中。皿に並べられた白米の塊達が、窮屈そうにラップに包まれていた。
夕飯はいらないと、彼は確かに仰っていた。余計な期待をしたのは、自分。
もしかしたら、早くに切り上げて帰って来られるかもしれない。途中で、気が変わるかもしれない。
――そんなあり得ない欲を抱いた分だけ、目の前の握り飯は質量を増した。
「……いただきます」
誰に言うでもないその言葉は、静か過ぎる台所にうるさい程響いた。
機械的に手を動かして、一口。まだ具に辿り着かない。きっと中身は梅だろうと思う。
満腹、という訳ではないけれど、特別お腹が空いている訳でもない。一人で黙々と食べるおにぎりは、塩の味すらしなかった。
悲しくはない。
ただ、酷く寂しかった。
「……捨ててしまおうかしら」
そう呟いた瞬間、皿の上のおにぎりが一つ無くなった。
「――おいおい、そりゃさすがにバチ当たりじゃねぇかい?」
あんぐりと開けられた大きな口に、鮭おにぎりが放り込まれる。それはごくあっさりと、その姿を消した。
「リクオ様……?」
「食わないならよこしな。――腹が減ってしかたねぇ」
一つ。また一つと、あれだけあった米が次々と彼の口に吸い込まれ、減っていく。一つ減るたびに心は軽くなり、唇は勝手に笑みを浮かべた。
あれよあれよという間に、皿の上は空になってしまう。
「ん」
すっと差し出された手のひら。彼の視線が、自分の持っている食べかけのおにぎりに注がれていることに気付く。
「これも、ですか?」
「あぁ」
じゃあ、と彼の手に半分の梅おにぎりを乗せると、すぐそれも食された。人差し指やら中指やらを舐める姿に、変な気持ちを抱きそうになる。
お腹を空かせていらしたから。ただそれだけのことだ。そこに特別なものは何も無い。きっと、きっと。
この想いを、自覚してはいけない。
「ありがとうな、つらら」
その言葉になんと返したのかも、どんな表情をしたのかも、覚えていなかった。会話を少しはしたはずだけれど、何一つこの胸には残ることなく。
気付けばその姿はなく、彼と供に夜の街に繰り出した青田坊が、入口に寄っ掛かってこちらへ苦笑いを向けていた。しょうがない、とでも言いたげな顔。なんだろうと眉を寄せて言葉を待てば、彼は普段より幾分小さな声で、こう呟いた。
「幸せもんだな、雪女は」
――ますます分からない。そりゃあ、自分の握ったものが無駄にならなかったのは幸運だったと思うけれど。
眉に加えて首まで傾げれば、なぜかため息までつかれた。
「……晩飯は食べたぜ。全員、たらふくな」
『――腹が減ってしかたがねぇ』
それが示す、意味。
「どうして……」
どうして、どうして。
この気持ちに、気付かせようとするの。
届かないものを求めることは、しないと決めたのに。
「なのに……っ」
私ばかりが、あなたを。