君が笑ったなら繰り返す




 雪が、降り始めた。
 窓際だからこそ気づくことの出来た景色の変化に、火照った溜め息が漏れる。外の寒さを示すようにすっかり白く曇ってしまったガラスを指で拭うと、わずかに汚れた水滴が滑り落ちた。教室の中には鼻を赤くした顔が並び、不意にくしゃみが響く。この部屋の中には沢山のウイルスが蔓延っているだろうに、誰にも嫌悪の色は現れていなかった。眼鏡を押し上げる。マスクをするだけの注意はあるのに、意外と何も感じていないのかもしれない。
 足下には冷たい空気がたびたび通り過ぎているので、きっとどこかの窓か扉が開いているのだろう。灼灼と燃えるストーブが報われないなと思う。
 けれどこの教室の上半分は噎せ返るような空気で満ちていた。不思議と息が行いにくい。酸素が足りないのだ、たぶん。窓に顔を寄せると、その表面の空気は冷ややかで心地よかった。
 ――今、なにをしてる?
 金の色が恋しい。時計によれば、拘束されるのはあと五分。鐘が鳴ったら探しに行こうと、目を閉じて決意した。



****************



 雪が、降り始める。
 そう感じた瞬間、曇天に白が舞った。屋上から見上げると、雲は手が届きそうなほど近かった。手を伸ばすことはしない。雪がたくさんの汚れにまみれていることを知っていたから。
 ――この季節は好きだ。静かで、空気さえ綺麗に思える。ただあの息苦しい、建物の中は苦手だけれど。

「つらら」

 背後の扉が開いている。そこから歩んできた主に微笑みながら、さりげなく一歩踏み出した。彼は同じようにさりげなく雪女にふさわしい冷たい手首を掬うと、それを頬にあてがった。

「熱いです、若。お顔も赤いです」
「うん……のぼせた」
「まぁ」
「嘘だよ」
「はい?」

 綺麗だ、という呟きのあと、手に白い息が吹きかけられる。蕩けたような笑みと共に。なぜだか、ふいに泣きたくなった。

「……ほんとは、つららを探しに来ただけなんだ」

 ――会いたかった。

 顔の筋肉が凍りつく。悦びで、視線は定まらなかった。



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