「……何でこんなことに」



 寝ている最中、喉の渇きを覚えてキッチンへ水を飲みに行った。どれだけ飲んでも渇きは満たされなくて、そろそろ吸血しないとやばいかもしれないなぁ、なんて憂鬱な気持ちを引きずって部屋に戻ってきたら。主がいないはずの布団がこんもり盛り上がっていた。中身を確かめれば、気持ち良さそうに眠る我が家のご長男様の姿が。

「シュウ、起きて」
「……」
「起きてってば」
「……やだ、寝てる」

 掠れた声でそう答えたかと思えば、更に布団を引き寄せて完全に熟睡モードに入ってしまった。私も大概寝起きが悪いと自負しているが、彼はその上を行く人物だ。ちょっとやそっとの事じゃ目を覚まさないし、動こうともしない。
 とはいえ此処は私の部屋であり、私の寝床だ。まだ寝足りない私としては彼に退いて貰わなければならない。一瞬シュウのベッドを代わりに使ってやろうかと思ったが、他人の匂いがする布団はどうも落ち着かないから、彼のベッドを使っても寝れそうになかった。
 結局私はこのぐっすり眠る長男を退けるしかないのだ。試しに布団を剥ぎ取るべく引っ張ってみる。びくともしなかった。

「私が寝れないから退いて。大体何で人のベッド使ってるの?」
「……俺の布団が寒かった」
「はぁ?」
「そういやあんたの体温高かったなって思って、来てみたら、丁度よくあったまった布団があったから、寝た」
「……」
「あー……あったかい、幸せ……。だから邪魔するな」
「邪魔なのは君だよシュウくん」
「五月蝿い」

 どんだけ我儘なんだこの長男は。怒りを通り越して呆れさえ感じた。退けー退けーと視線で念を送っていたら、居心地が悪くなってきたらしいシュウが目を開けた。綺麗な青色の瞳が私を見上げる。寝惚け眼を何度か瞬いて、軽く首を傾げた。

「……お前、顔色悪くないか」
「そう?」
「ああ、青白い。人間だったら見るからに不味そうなくらい」
「似たようなことレイジに言われた」
「あいつが?」

 レイジの名前を出すとぴくりと反応したけれど、すぐ何でもないような顔に戻った。
 此処がレイジとシュウの違いだろう、と私は勝手に思っている。互いを敬遠しているベアトリクスの息子達だが、シュウを心底蔑み存在を無視しようと刺々しい態度を取るレイジに対して、シュウはあくまで受身だ。レイジに避けられるから、近付かない。彼は別にレイジに対して嫌悪感は抱いていないし、他の兄弟に対してよりは余程意識を配っている気がする。それでもそんな素振りを見せないのはレイジの逆鱗に触れるのが目に見えているからだし、それをやってレイジに嫌悪を向けられるのが嫌だからだ。だからあくまで受身。それでも、レイジの名前を出されると気にはなるらしい。
 似てるんだが似てないんだがよく分からない二人だ。

「この間リビングで寝てたらレイジが来た。顔色悪いですよ、ちゃんと食事しているのですか、って」
「ああ……お前、また食ってないんだ。何で? あいつがいるだろ?」
「ユイのこと?」
「ん」
「ユイからは吸わない」
「ふーん、そ。まあそれで体調悪くなってんだから自業自得としか言いようがないな」
「自業自得でも何でも良いから、せめて寝かせてよ」
「いやだ。寒い出たくない」

 溜息を吐く他なかった。 眠りを妨げるほどの喉の渇きは今や体調不良にシフトしていて、目の前がくらくらする。割と本気でやばいからシュウには退いて貰わないと困るんだよなぁ。とはいえ私の力じゃ彼を退かせることは出来ない。もう今日は諦めるしかないな、と思いつつも恨めしい気持ちは収まらなくて、僅かな抵抗とばかりにシュウを睨んだ。
 すると、私の顔をじっと見ていたシュウが突然私の手首を掴んで引っ張った。がくん、と身体が傾きそのままベッドに倒れこむ。もそもそと動くシュウが布団をかけてきた。
 枕を独占してはいるが少しだけスペースを貸してくれるということか。

「お前、気持ち悪いくらい顔色悪いし、特別に一緒に寝てやるよ」
「全然嬉しくないんだけど……」
「っていうか、倒れるなら好きにしてくれって感じなんだけど、お前が倒れたらあの女が五月蝿いだろ。屋敷中に響く声で喚くのが目に見えてる。そしたら俺が寝れない。それが嫌だ。それだけ」

 寝惚け眼で淡々と言い切るシュウは、ふわあ、と大きな欠伸して、もういいだろと言わんばかりの様子で目を閉じた。直後に寝息を立て始める。三秒かかってなかったぞ今。
 折角私が温めていた布団の温もりはシュウに奪われていて、寒くて仕方が無い。枕も取られたままだし、快適とは言い難い。しかし抗議しようにもシュウは完全に寝入ってしまっていて、多分揺すっても起きないだろう。今日は妥協してこの状態で寝るしかなさそうだった。
 とりあえず、意外と心配性な長男と次男のためにも、さっさと吸血してこないとなぁ、と思いながら眠りについた。


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