時計を見ながら心の中で数える。
 さん、に、いち、ぜろ。
 年が明けた。新年の始まりだ。

「シュウさん! 年が明けましたよ」
「……ん、あ?」

 普段なら昼寝中のシュウさんは極力起こさないようにしているんだけれど、今ばかりは彼のぐったり横たわる身体を揺すらない訳にはいかなかった。
 何故か私のベッドの真ん中で熟睡していたシュウさんは、不機嫌そうに眉を寄せながら薄目を開けた。

「ん……なに……」
「新年! 新年ですよ。明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いしますね」
「……」

 ぱちぱち。ゆっくりと瞬きをしたシュウさんは、身体をもぞもぞ動かして起き上がる――ように見せかけて更に深く布団に潜り込んだ。まだ寝るつもりなのか……と半ば呆れた気持ちになりながらも、一番初めにシュウさんと新年の挨拶をしたかった私は負けじと布団を引き剥がす。

「……寒い、布団返せよ」
「そもそも私の布団なんですけど……」
「あんたのものは俺のもの。俺のものも俺のもの」
「何言ってるんですか。ちょっと横暴すぎます」
「あんた今まで謙虚なヴァンパイアに会ったことあんのかよ?」
「……それはないですけど」
「ほらな。大体俺がこういう奴だって分かってて俺を選んだのはあんたなんだから、自分の選択には責任を持てよ」

 何だかお説教をされてしまいばつが悪くなってくる。どうしたものかなぁ、と頭の中でぐるぐる考えていたけれど、シュウさんの「んじゃあ……俺は寝るから」という発言で我に返った。

「しゅっ、シュウさん! せめて新年の挨拶だけさせてください」
「……あんた本当に面倒くさいな。起き上がるの嫌だから、あんたが布団に入ってきて」

 うつ伏せになって寝ているシュウさんは私の枕にしがみついて独り占めしている。本当に、どうして私のベッドにシュウさんが我が物顔で潜り込んでいるのか。疑問に思ったことは数知れないけれど、何を言っても無駄なのはわかっていた。

「……じゃあ、お邪魔しますね」

 言われた通りに同じ布団に潜り込む。自分の布団なのにお邪魔しますなんておかしな話だけれど、まあこの際それは気にしないことにしよう。シュウさんと微妙に距離を空けて身体を横たえれば、うつ伏せになっていたシュウさんが身体を動かして私と向き合った。青い瞳は先ほどよりも幾分しっかり開いている気がする。

「……あんた本当に入ってきたの? 相変わらず頭がゆるいっていうか、馬鹿だよな」
「シュウさんが言ったんじゃないですか」
「五月蝿い。……で、なに」
「だから、新年ですよ。新しい年の始まり。 だから挨拶がしたくて。去年はお世話になりました、今年も宜しくお願いします」

 布団の中で寝転がりながらというのが何とも間抜けだけれども、ぺこりとお辞儀をしながら言えば、シュウさんは暫く私を凝視したあと鼻で笑った。

「……俺があんたにどんな世話をしたって言うんだよ」
「どんなって言われると困りますけど……」
「ふうん、気持ちよく吸血してくれたこととか? んで、来年も宜しくお願いしますってことは、来年もたっぷり吸血されたいってこと? ……あんた本当淫乱だよな」

 シュウさんが私の口を挟ませずとんでもない内容を訥々と語るものだから、一瞬呆気にとられてしまった。

「……吸血のことじゃないですよ」
「じゃあなに」
「……うーんと、ほら、一緒にいてくださったこととか」
「あんたが勝手に俺に擦り寄ってくるだけだろ。別にあんたのために一緒に居ようと思ったことなんて一度もない」
「……そうかもしれないですけど、私にとってはまあ、どっちでも良いです。きっかけがどんなものでも、一緒に過ごせたことが嬉しいんです」

 勿論良いことばかりではなかったけれど、昨年のことを振り返ればいくつかはシュウさんのお陰で楽しくなった記憶がある。それを思い出せば自然と頬は緩んだ。
 シュウさんは胡散臭いものを見るような目を私に向けている。

「……あんたって本当に馬鹿だな」
「馬鹿でも良いです。ね、シュウさん。今年も宜しくお願いしますね?」

 シュウさんはまた、ふんと鼻で笑って、今度は私に背中を向けるようにごろんと寝転がってしまった。

「シュウさん?」
「……一緒に居たいとかどうでも良いけど、あんたがそうしたいなら勝手にすれば」

 答えてくれた、ということは、少なくとも彼に拒絶する意図はないということだ。それがとても嬉しくて、緩む頬を隠す気もなく、シュウさんの背中にぴったり抱きついた。

「はい、ありがとうございます」

 シュウさんはぴくりと震えただけで、私を拒絶することはなかった。そんな反応に、去年一年で随分心の距離が縮まった気がして、心が温まる思いがした。人間より冷たい体温が何だか心地よくて、私は目を閉じる。
 今年も良い年になりますように。


(20140101)
2013と打ちかけて戦慄しました


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