※ひたすらいちゃいちゃする話
※ヴァンパイア流の姫始めということで



 もう見慣れてしまったルキくんの部屋で、私は冷たいシーツに背中を預けていた。
 私に覆いかぶさるルキくんの手のひらが膝から太腿をゆっくりと撫で上げる。人とは違う吸血鬼特有の冷たさと、嬲るようなその手つきに腰がびくっと震えた。

「触られただけで感じるのか」
「ち、ちが、」
「違う? 物欲しそうな目で俺を見上げ、ただ撫でられただけで腰を震わせているのに?」

 ルキくんは揶揄するようにそう言うと、嘘をついた私を罰するためか、指先が触れるか触れないかの力加減で太腿から内股まで滑らせた。くすぐったさとは別の感覚に思わず鼻にかかった甘ったるい声が漏らしてしまう。

「ふっ、どの口が感じていないなどと言えるんだか」

 私の反応を一つも見逃さないようにねっとりと注がれる視線が羞恥心にじりじりと火を灯す。同時に身体の奥底から湧き上がる感覚から逃げるように目を瞑った。

「……目を開けて、ちゃんと俺を見ろ」
「……ん、あ」

 咎めるように囁かれ耳朶に舌を這わされれば、私に逆らう術など残されていない。薄目を開ければルキくんの柔らかい黒髪がすぐ近くにあった。ちゅう、と吸い付かれる水っぽい音が耳元で聞こえて頭がくらくらした。

「ル、キ……くん……みみ、耳だめ」
「なぜだ?」
「あっ、あ、やだ、しゃべらないで……」

 高くもなく低くもない声で囁かれ、身体の奥――子宮の辺りが熱くなって、その感覚を誤魔化すように内腿を擦り合わせた。

「お前は耳まで性感帯なんだな……本当に、どうしようもなく、いやらしい身体をしている」
「お、おねがい、耳元で、しゃべらないで……っ」
「耳を舐められるだけで達しそうになっている滑稽なお前を見ているのは気分が良いんだが……まあ、ここで終わらせるのも勿体ないしな」

 ようやくルキくんが耳元から離れてくれたので、内心で胸を撫で下ろした。否と言わせないルキくんの声で囁かれ続けたら自分の身体がどうなってしまうのか分からなかった。
 私の頭の両脇に手をついたルキくんが真っ直ぐ見下ろしてくる。深く黒い瞳は視線を逸らすことを許してくれない。

「……る、きくん」
「なんだ?」

 そんなに見ないで、と言いたくて名前を呼んだのだけれど、問い返すルキくんの声色や口調があまりにも優しくて、用意していた言葉が崩れていってしまった。

「俺は今気分が良い。お前の頼みを聞いてやらんこともない」

 ずるい。いつも厳しい言葉で突き放すように私を責めるくせに、どうしてこんな時ばかり甘い口調で話すんだろう。脳に染み込むようなその甘さは、真綿で首を絞めるようにじわじわと私を追い詰めるのだ。
 きっと私はすごく物欲しそうな顔をしているんだと思う。こちらを見下ろすルキくんの瞳が愉悦を湛えているのがその証拠だった。
 毒のように身体に染み渡る甘い囁きによって私の中にあった羞恥心は瓦解し始めていた。何故か身体に力が入らなくて、のろのろした動きでルキくんの首に腕を回す。

「キス……キスして、欲しいの」
「ああ、いいぞ」

 器用に片方だけ唇を持ち上げるルキくんの満足そうな笑みを見ているだけで私の心は満たされる。幸せとしか形容できない気持ちに抱かれて目を瞑ると、冷たくて薄い唇が触れた。形を確かめるように唇を食まれ、ぬるりと冷たい舌が唇を撫でたあと、唇を割って潜り込んでくる。おずおずと舌を差し出せば、唇を合わせたままルキくんが喉の奥で笑い、私の舌をさらってちゅうっと吸った。

「……ん」
「ふ、ぁ……んっ、ん」

 ルキくんが合間に漏らす吐息すら私の奥底の何かを刺激する。もっと、と強請るように首に回した腕を引き寄せれば、ルキくんが私の頭を抱え込むように押さえて口付けを深くした。
 酸素を根こそぎ奪うような口付けに意識は朦朧とし、その中でもはっきりと聞こえてくるルキくんの吐息と絡み合う唾液の水音、そして自分のものとは思えないほど甲高く甘ったるい声が、容赦なく聴覚を犯していく。子宮で湧き上がる熱はもう無視できないほど大きくなっていて、昂ぶる身体が辛くて生理的な涙が滲んだ。
 意識を失う寸前でルキくんの顔が離れていった。ぐちゃぐちゃに混ざり合ったふたりぶんの唾液が糸を引いて、ぷつんと切れる。

「……良い顔だ」

 ルキくんが自分の唇をぺろりと舐めた。口の周りを唾液でべたべたにしてぼんやりしている私と違って、彼は至って涼し気な顔をしていた。

「情欲に塗れ、理性をぐずぐずに蕩かされ切った雌の顔をしている。まさに家畜と呼ぶに相応しい」

 普段なら酷いと抗議したくなるような蔑む言葉も、今は私の熱を加速させるだけだ。

「る、き、くん……からだが、あついの」
「ああ……そうだろうな。触れていなくとも、お前の体温が上昇しているのが分かるぞ。熱されたお前の血が皮膚の下から濃厚な香りを漂わせている。まるで……俺に吸って欲しいと誘っているようだ」

 身体に篭る熱はもうどうしようもないくらいになっていて、身を焼くような熱さに耐えきれなくて目尻からぽろぽろと涙が零れていく。
 きっと、この熱を和らげることが出来るのはルキくんの吸血だけだ。もしかしたら吸血されて益々熱が滾るかもしれないけれど、それでも構わなかった。ルキくんに吸血されて与えられる快楽の熱で、今私の身体を蝕む熱を塗り潰して欲しい。
 吸血して欲しいという意味でこくこく頷く。けれど、その行動の意図を理解しているはずのルキくんは、態とらしく首を傾げて笑うばかりだ。

「何を頷いているんだ?」
「……ぁ」

 零れ落ちる涙をルキくんの唇が吸い取る。私の火照った身体と対照的に、憎らしいくらい冷んやりとしている唇がすごく気持ち良くて、うっとりと目を瞑って身を委ねる。

「……ほら、ユイ。言わなければ分からないぞ。して欲しいことがあるのなら、お前の言葉で強請ってみせろ」
「……ん、ぁ」
「ユイ」

 じんわり急かすように名前を呼ばれる。甘い囁きの中に有無を言わせない強制の色を滲ませられれば、もう私の口は勝手に開いていた。

「……ち、血を」
「血を?」
「血を、吸って、吸って欲しいの」
「どこを、どんな風に?」

 つつ、とルキくんの指先が太腿を撫でる。最初より私の体温が上がっているせいか、余計に彼の指が冷たく感じられて、私の口からだらしなく吐息が漏れる。

「……ん、く、び……ぁっ、くびに、深く刺して……ルキくんの、キバが……欲しい……っ」
「ああ……良い、良いぞ」

 真っ直ぐこちらを射抜く黒い瞳に徐々に熱が灯っていく。まるで私の身体に渦巻く熱が彼に伝染し侵食していくかのような光景に、喜びとも興奮ともつかない感情が突き上げてきた。
 ルキくんの冷たい指が内腿にたどり着く。ゆっくりと動く手はスカートをたくしあげ、足の付け根まで撫でていく。身体の熱が爆発してしまいそうだった。

「お、ねが……っ、噛んで、くびに……ル、キくん……お願い……っ」
「……上手に強請れたご褒美だ。首を差し出せ、お前の望み通り、深くキバを突き刺してやる」

 どうしようもなく火照った身体はもう感覚も薄れていて、ぶよぶよと生ぬるいゼリーが全身を包んでいるようだった。はっきりしない触覚と上手く動かせない身体でなんとかリボンを引き抜きシャツのボタンを外した。強引にシャツを引っ張って、命ぜられた通りに首元を差し出す。
 すっ、とルキくんが私の首元に顔を埋めた。冷たい舌がねっとりと肌を舐め上げたかと思えば、直後につぷり、と音を立ててキバが皮膚に埋め込まれた。控えめな音を立てて、ルキくんが血液を吸い上げていく。

「あっ、んっぁ、……だめ、だめぇ……っ」
「ん……何が、駄目なんだ」
「キバが、痛くて……痛くてっ、気持ちいいのっ」
「痛いのが気持ち良いのか? とんだ淫乱だな」
「やぁ……っ、んんっあ、いわっ、いわないで……」

 私を煽るためにわざと水っぽい音を立ててルキくんが血液を舐めとる。燻っていた熱を忘れるほどの快感に頭が真っ白になって、何も考えられなくなって、得体の知れない何かから逃げるように身を捩るけれど、ルキくんが両足で私の腰を挟んで拘束してしまう。
 ベッドに背中を預けている筈なのに身体を上手く支えられなくて、底の見えない暗い闇に堕ちていってしまいそうだ。縋り付くようにルキくんの背中に抱きつけば、穿たれたキバが更に深く食い込む。

「だめっだめぇ、……お、かしく、なるっ……飛んじゃう、あ、あっ」
「俺のキバに追い詰められて、好きなだけ……飛べ」
「んっ、あ……っ!」

 噛みつかれたまま低く囁かれた途端、びくびくっ、と身体が震えて、浮遊感を覚えた。目の前と頭の中が真っ白になって、意識が遠のく――。


   *


 ちゅう、と水っぽい音で目が覚めた。妙に頭がぼんやりしている。眠気とも倦怠感ともつかない感覚を振り払うように何度か瞬きをすれば、ようやく視界がはっきりしてきた。

「……ん、目が覚めたか」

 すぐ近くでルキくんの声が聞こえる。続いて首筋にぬるりと冷たいものが這って、ああ、傷口を舐められているのかと理解できた。

「反応がない女から吸血する趣味はないからな。この俺がお前の覚醒を待ってやったんだ。感謝しろ」

 言われている意味が分からないけれど、取り敢えずこくんと頷く。

「さあ、続きだ」
「……つ、づき?」
「お前から煽ってきたくせに呆気なく意識を飛ばしたせいで、俺は全然吸い足りないんだ」
「……ま、まだ、まだやるの?」

 意識が飛ぶほどの快楽は、我を忘れてしまいそうなくらい強烈で、同時に恐怖さえ伴っているのだ。意識を失う前の不安定な身体を思い出してぶるりと身震いした。

「自分だけ満足して終われると思うな。お前には家畜として、主人の欲を満たす義務がある」
「や……こわい、頭が真っ白になって、こわいの……」
「何度でも意識を飛ばすと良い。その度に俺がお前を起こしてやる」

 また新しい場所にキバが穿たれる。血を吸い上げながら漏れるルキくんの吐息が首筋に当たってくすぐったい。

「……誘ったのはお前の方だ。覚悟しろ」

 甘い、甘い囁きが、また私を恐怖と快楽に引きずりこむ。



(20140101)
あけましておめでとうございます


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