コウくんに「日曜日デートしよっ」と言われたのが一昨日のこと。夕食の食材を買いに行った帰りに雨が降って、傘を忘れた私がびしょ濡れになったのが昨日のこと。三十八度の熱が出たのが今日のこと。


「ほんっと信じらんない。ふつーこんな日に風邪ひく? 折角おれがわざわざきみが寂しくないようにって、仕事の予定調整して暇作ったのにさぁ」
「ごほっ、ごめ、ごめんね」
「あーもう酷い声。がらがらじゃん」
「……本当にごめんね」

 折角コウくんが私のことを想って彼の時間をくれたのに、その気持ちを台無しにしてしまったことが悔やまれる。何度謝っても足りなくて、許してもらえるとも思えないけれどもう一度謝罪を口にしようとしたら、コウくんは頬を膨らませて(すごく可愛い)人差し指を私の唇に押し付けた。

「……謝らないでよ。確かにこんな日に限って風邪引いちゃうユイは本当にどうしようもなーくおばかさんだと思うけど、そんな酷い声になったのはおれのせいでもあるんだし、さ」

 きっと昨日のことを言っているんだ。
 買い物の帰りにびしょ濡れになった私は、生ものを冷蔵庫に入れてからお風呂に向かっていた。秋の雨はすごく冷たくて身体の熱を容赦無く奪っていたし、次の日(つまり今日のことなんだけど)に風邪を引くようなことだけはしたくなかった。だから、お湯で身体を温めようと浴室に向かっていたんだけど、その途中、お腹を空かせたコウくんに遭遇した。彼は濡れている私の「お風呂にいかせて」という発言を無視して自室に引きずりこむと、たっぷり一時間吸血し続けたのだ。途中お風呂に入りたいと抵抗を続ける私を押さえ込んで「吸血されたら身体も熱くなるでしょ」とか言っていたコウくん。彼の言うとおり確かに身体は暑くなったけれど、そんなことで免疫力が戻るはずもなく、結局私は夜寝る頃には喉の痛みを感じていたのだった。ついでに夕食の用意が遅れてコウくん以外の三人に散々罵倒されたのも付け加えておこうと思う。

「……たしかに、コウくんがお風呂に入らせてくれなかったのも原因の一つかもしれないけど」
「……けっこうはっきり言うね」

 自分の過失を指摘されたコウくんは不貞腐れたような顔で唇を尖らせる。叱られた子供のようなその様子が可愛くて思わず笑ってしまう。

「でも、そもそも私が天気予報見ずに傘を忘れたのが悪いんだよ。それに雨に濡れただけで風邪引いたのは、きっと元々免疫力が下がってたんだよ」
「……それで?」
「だからコウくんだけのせいじゃないよ。私の体調管理がいきとどいてなかった、せ、げほっ」

 喋りすぎて咳をしてしまった。喉がいがいがするので、気休めだけれど唾をごくんと飲み込む。私の顔をじいっと観察していたコウくんは、はあーっと溜息を吐きながら頭を抱えて俯いた。

「……どうしたの?」
「ユイがばかみたいにお人好しすぎて呆れてんだよ。この馬鹿。ばーか」
「ええっ、そんな、酷い」

 コウくんが顔をあげる。そこに浮かんでいたのは苦笑だ。

「まあ、折角時間作ってやったのに台無しにしてくれちゃったきみには呆れてものも言えないし正直かなりムカついたけど」
「……ごめんなさい」
「だから謝らないでってば。まあ、外にデートしに行けなくても、きみと一日中一緒に居れるんだから、それで勘弁してあげる」

 元気付けるようにウインクしながらそう言ってくれるコウくんに、つられて私も頬が緩む。以前の彼なら私の体調なんて気にせず問答無用で外を引きずり回していただろう。そんな彼が今は悪態をつきながらも私の心配をしてくれる。それが嬉しくて、頬の筋肉がだらしなく緩んだ。

「……なにブサイクな顔でにやにやしてるの」
「ひ、ひどい」
「早く答えなよ。なににやにやしてるの」
「……コウくんと一緒に一日過ごせるのが、嬉しいなって」

 言ったあと、素直に今の気持ちを語ってしまったことに羞恥を覚える。コウくんも何故か赤い顔をしていて、真っ赤な顔をした二人、顔を合わせて笑った。



(20131228)
これは誰だ


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