※無神兄弟が機種変したようです
※アズサが機械音痴です


 リビングのソファに並んで座るコウくんとアズサくん。アズサくんは両手で黒色の折り畳み携帯を持っていて、首を傾げながら画面を凝視している。コウくんはそんなアズサくんの携帯を横から覗き込み、画面を指差したりボタンを指差したりしながら操作方法を教えてあげているのだが……。

「アズサくん、どう?」
「だめ……わかんない……」
「じゃーもう一回言うよ? まずは電話の使い方からね」
「ん……」
「まず待ち受けの画面の状態で、真ん中のボタンを押して――」

 前途多難のようだ。

「アズサくんそっちじゃなくてこっちのボタン」
「……?」
「うーん案外スマホにした方が分かりやすかったかもね。とりあえずおれらと連絡とれるように電話とメールだけ頑張って覚えよ、ね?」
「うん……」

 アズサくんは何だか集中力に欠けているようで、そわそわしながらぼんやりとした調子で頷いている。コウくんは「もーしょうがないなぁ」なんて苦笑しながらも懇切丁寧に説明してあげていて、二人とも仲良いのがよくわかる。
 コウくんの携帯は水色のスマホで、小さなぬいぐるみやら何やらのストラップが繋がれている。可愛いもの大好きな女子高生みたいな携帯だった。
 私の隣に座るユーマくんは、携帯を箱から出したっきり付属品は全て後ろに放ってしまっていて、操作を覚えるつもりなんか全くないらしい。今まで携帯を一度も開くことなく一心不乱に作業している。

「ユーマくん、なにしてるの?」
「んだよ、見てわかんねーのか」
「ストラップ付け替えてるように見えるけど」
「おうよ。どうせこんなもん使わねーけどな、前の携帯につけてたこれ、勿体ねえから使ってやんねーと」

 ユーマくんはストラップを付け替え終えたオレンジ色の携帯を掴んで、ストラップがよく見えるように私の目の前に持ってきてくれた。
 四角く白い石と小さいイチゴの、ビーズストラップ。豪快な彼にちょっと似合わないセンスが何だか微笑ましい。

「あぁ? 何笑ってやがる」
「可愛いストラップだなぁと思って」
「なんか言い方が気に食わねえが、ま、雌豚にしちゃ見る目があるじゃねえか。この白い石、シュガーちゃんに似てんだろ? コウに引きずられて買い物行ったときに見つけてよ」
「それで買ったんだ」
「おう」

 ユーマくんはそう言うと、ストラップを自分の目の前に持っていき指先で弄り始めた。細長いビーズストラップがゆらゆら揺れる。ご満悦といった様子だ。
 さてルキくんはと言えば、大方説明書に目を通し終えたらしく、既に付属品を箱に戻しその上に携帯を乗せていた。黒くて何だか素っ気ない印象の折り畳み携帯だ。

「ルキくんは何もしないの?」
「メールアドレスの登録は終わったが」
「そうじゃなくて、新しい携帯の使い心地確かめたり……とか」
「何故そんなことをする必要がある?」
「新しい携帯に替えたら嬉しくて色々触ったりしない?」
「覚えがないな。お前は携帯を替える度にそんなことをしているのか」
「うん」
「携帯を弄る暇があるのなら、勉強でもしてそのつるつるな脳味噌に皺の一つでも刻めば良いものを。お前は無駄なことをするのが好きなんだな」
「……」

 あんまり言い返せない……。口を噤むとルキくんがそんな私を馬鹿にするように鼻で笑った。

「ねえ、コウ、小さい『あ』が打てないんだけど……」
「えっとね、それはほら、左下のボタン」
「……出来た」
「じゃあおれのアドレスにメール送ってみて!」
「……ん」

 話している間にアズサくんがメールの送り方を覚えたらしい。たどたどしい手付きでボタンを押しながらコウくんへの文面を打っているのが見える。
 ユーマくんは携帯をテーブルに放り出すと、身体を伸ばしてほぐしたあと、菜園から果物をとってくると言ってリビングを出て行った。
 ルキくんはいつの間にか読書をし始めていて、周りの音をシャットアウト中のようだ。携帯は相変わらず箱の上。


 数分後、アズサくんのメールがコウくんに届いたのと同時にユーマくんが菜園から帰ってきて。賑やかな屋敷で、今日も平和を噛み締めながら、ユーマくんがとってきてくれた果物を皆で食べるのでした。


(20131126)
日記で言ってた携帯ネタです。
アズサは傷を抉りたくてうずうずしていて話を聞いてない→覚えれない


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