「ルキ……くん……!」
「五月蝿い。読書の邪魔をするな。それに先程、俺が良いと言うまでそこに居ろと命令しただろう?」
「う、う……」

ベッドの縁に腰を下ろし本に視線を落とすルキくんは、此方を見ることなくそう言った。突き放したその態度に心が痛む。床に正座をして身じろぎ一つするな、という理不尽な命令を下され今まで頑張ってきたけれど、私の両足は既に限界を訴えている。痺れて感覚もない。もう、駄目だ。耐えられない。幸いルキくんは本に集中しているし、視線も本に落としたままだ。ばれないように足を崩して痺れを治そう。そう思って床に手をついて腰を持ち上げ、足を楽にした時。

「ーーユイ」

ゆったりと、低い声が私の名前を呼んだ。顔を上げれば、ルキくんの綺麗な瞳が真っ直ぐ、射抜くようにこちらを見つめている。目が、離せない。心の内を全て暴くような彼の瞳が、私を責めている。ああ、駄目、逆らえない。私はゆっくりと腰を元の位置に戻して正座し直した。ルキくんの心を見透かすような視線に耐え切れなくなって、私は俯く。微かにルキくんが笑った気配がして、その後直ぐにばたん、と本が閉じられた。

「ユイ、足はどうだ?」
「……痺れて……痛いよ」
「お前が何故俺に正座を命じられたか、勿論覚えているよな?」
「……ルキくんとの買い物の途中、一人で勝手に店に入って、はぐれたから」
「ああ、良かった、覚えていたんだな。愚かで低脳なお前のことだから、てっきり忘れているのかと思った。なら、その正座はどうしようもなく愚鈍なお前への躾だ。分かるな?」
「は、い」

いつもより何割か増して罵倒が酷い。彼が怒っている証拠だ。静かに怒気を漂わせる彼が怖くて、また一方で彼に怒られることに喜びを覚えている自分に戸惑って、私は顔をあげることができない。顔をあげてしまったら、きっとルキくんは私の根底に存在する喜びに気づいてしまうから。

「許して欲しいなら、誠意を見せろ。俺の機嫌が良くないのは、いくら鈍感なお前でも分かっているだろう」
「せい、い?」
「分からないのか。……仕方ないな。ならば正座を崩してこっちへ来い」

誠意、吸血だろうか。考えながら言われた通りに正座を崩し、立ち上がろうとしたけれど、足の痺れが酷すぎて立ち上がれなかった。それどころかバランスを崩して床に倒れこむ。

「……っ」
「どうした、お前の主人が呼んでいるんだぞ。早く来い」
「足が痺れて……っ、動けな……!」

顔をあげて縋るようにルキくんへ目を向けると、愉快そうにこちらを見つめる瞳と視線が絡み合った。その瞳の奥にまだ微かな怒りの色が見えて、きっと彼は私を助けてくれないだろうと悟る。穴が空きそうなくらいの視線を受けながら、私は腕だけを使って懸命に床を這いずった。

「はは……、まるでまだ立つことの出来ない赤ん坊のようだな。無様で、みっともなくて、お前によく似合う」

散々な言われように少し落ち込みながらも、なんとかルキくんの足元まで辿り着いた。床に座ったままルキくんの顔を見上げる。ルキくんは私の身体を持ち上げて、向き合うように自分のひざに座らせた。普段は見上げる顔が近くにあって、何だか気恥ずかしい。顔を背けると、それを咎めるように名前を呼ばれ、仕方なく目を合わせた。

「足はまだ痺れるか?」
「うん……立てない……」
「そうだろうな。これに懲りたら、俺に許可を得ず一人で何処かに行くのはやめろ」
「ごめん、なさい」
「まあいい。お前が無様に這いずりながら俺の所にくるのを見たら少し気が晴れた。特別に罰もなしにしてやる」

罰、とは、やっぱり吸血のことなんだろう。そうか、今日は吸血をしないのか。足の痺れに意識を向けながら、何と無く物足りなさを感じていたら、ルキくんが喉の奥で笑った。意地悪な笑みを浮かべている。

「随分残念そうな顔をしているな」
「……」
「俺に吸って欲しいのならそう言え。満足のいくおねだりが出来たら、考えてやらないこともない」
「……別に、そんなこと思ってない」
「そうか、ならばお前にもう用はないな。廊下へ出してやるから早く自分の部屋へ戻ると良い」

言って私の身体を持ち上げようとするルキくん。これは本当に廊下に放置する気だ。……吸血もなしだ。焦って彼の服に縋りつけば「俺に吸って欲しくはないのだろう?」問われるが答えられない。じっと見られている恥ずかしさで顔に熱が集まる。そんな私を「仕方がないやつだな」と笑って、ルキくんは私の唇に優しくくちづけをした。

「……吸って、ください。お願い、します」

そして、視界が回り。


(20131027)
(20131104)



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