日差しの強い午後だった。
 遮られることなく降り注ぐ日光から逃げるように、小梅は横になって身を丸めた。

 つまらない。
 声に出さずそうぼやく。

 高校生になったら何か面白いことが起こるのではないか、なんて。そんな子供っぽい漠然とした期待をしていたわけではないけれど。
 制服が変わっただけ。授業のレベルが少し上がっただけ。そんな高校生活に、入学早々飽き飽きしていた。

 目元を覆った指の隙間から、空を見上げる。


 まぶしい。







「あれ、王子」


 うとうとと微睡んでいた小梅は、聞き慣れない声に意識を覚醒させた。
 小梅を王子と呼ぶのは同学年の女子だ。綺麗な容姿や物腰柔らかなところかららしい。安直だ、と小梅は思う。

「王子もサボったりするんだ?」

 また「王子」。だが、この声の主は可愛らしい女子生徒ではなかった。
 何度か瞬いて、声の主を見上げる。
 焦げ茶色の髪は短く切り揃えられていて、その奥には目尻の下がった瞳がふたつ並んでいた。身に付けているのはもちろん男子用制服。
 女子ならまだしも、男子に王子と呼ばれるのはどうもからかわれている気がして、ムッと眉を寄せる。

「俺に何か用?」

 思ったよりも低い声が出た。

「あ、怒った?」

 少年は少しばかり焦った様子でしゃがみこむ。

「王子って呼ばれるの嫌だったなら謝る。ごめん。でも俺、名前知らねーし」

 もう一度、ごめんと頭を下げる。
 顔つきはまだ少し幼いのだが、右目の下にある泣き黒子がどことなく彼を大人っぽく見せていた。
 チラリと盗み見た上履きは1年。同学年だ。


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