国語科教師が台風の影響で未だ出勤していないらしく、現在三時限目の授業は言わずもがな自習だ。自習など、なんてことはないが、今回担任の代わりに自習を監督する教師が今回ばかりは面倒だった。女子の体育科教師、女の人の割にはかなり恐ろしい。これなら男子の方が良かったと思う。けどまあ何だかんだ言って私も真面目に手を動かしている。時折話す女教師の言葉を耳に入れながら、ざあざあびゅうと窓を打ち付ける豪雨と吹き荒れる風が気になって仕方が無い。やはり私だけではないらしく、ごおおと音が聞こえる度に皆が窓を見る。私もつられてそっちに目線をずらす。台風が上陸するとか何とか朝の登校中に近所の小学生が騒いでいたのを思い出す。ちびっ子共飛ばされなきゃいいけど。すっかりシャーペンを動かす手が止まっていた。すると、ががががと何処からか音が聞こえる。耳を済ませば机の中に入れておいた携帯の振動音だということに気が付き、慌てて取り出した。周りをきょろきょろと見回すが、隣の席の男子しか気付かなかったようだったので良かった。安堵の息をもらしてから携帯のディスプレイを見ればメールが一件〈仁王雅治〉と表示されていた。てめえかよと携帯を投げたい衝動に掛けられた。今日の欠席は彼奴一人。台風で休むとか何処のがきんちょだ。メールの内容はタイトルに「暇」の簡潔な言葉のみ。じゃあ学校来いよと打てば「めんど」と返ってきたので、じゃあメールすんなよと打つ。するとそこで誰かの鋭い視線を感じた。やばいと理解した時は遅かった。つかつかと歩み寄る教師に内心だらだらと冷や汗を流す。

「名字、今は何の時間か分かる?」
「えーと……自習だったと思います」
「じゃあ、それは自習道具か?」
「……ちょっと、メールが」
「メール? 誰から?」
「私は悪くないですって! にっ仁王があいつ今日サボってるんすよ。何か嫌がらせみたいなメール送ってくるし」
「まあ、何だろうと携帯は没収だ」

 私の携帯が教師の手に渡った瞬間、この世の全てに絶望した。仁王明日の朝ぼこ殴りにしてやる。はあと思わず溜め息をもらした。台風は近づいているし、今日はとんだ災難だ。だがそれも杞憂だというか何というか。その直後校内に放送が流れ全校生徒は帰宅を余儀なくされ、直ちに下校となった。勿論そのお陰で携帯を直ぐに返されたので、全てちゃらとしてやろうか。まあ取り敢えず、まじでくたばれば良いと思うよあいつ。


20110921