身体に変な感じがする、という妙な感覚で目が覚めた。案の定、シャツが肌に張り付きべとべととして気持ちが悪かった。だが、それ以上に奇妙だったのが視界一面が全て真っ暗闇だったこと。薄らと月の蒼白い光に照らされ、夜の世界だということに気付く。しかし、それ以外に光らしきものは無い。街灯の一つや二つあった筈だと思うのだが。嫌でも思考がはっきりとして、横たわっていた上半身を起こす。冷静に考えると微かな疑問が頭を過ぎる、俺は只いつも通り寝ていた筈だった。いつものように部活の時間になれば樺地が迎えに来てくれる。で、跡部に呆れ顔で説教されるのが日常茶飯事だ。もし、今日に限り来てくれなかったとしても、下校時間には誰か一人位通りかかる。言っちゃあ何だが俺だって人気があるし、言い寄って来る女の子だって沢山いる。よって、月があんなに高く上がるまで寝ていたことなんて一度もない。突如として冷たい風が吹き抜け、ぶるるっと身体が震える。いくら何でも当たり前だ、季節が春というのも理由の一つだが、俺が何時間も眠っていたらしきこの場所は校舎の外にある大きな樹木の下。つまり、野外ということになる。数時間前の自分を呪いたい、と少し涙が出そうになるのを堪え、俯いていた顔を上げる。それと同時に女の子の声が何処からかともなく聞こえてきた。呂律が上手く回っていないことからして、幼い女の子のようだ。何を言っているのかよく耳を澄ますと、数字を数えているようだった。何故学校内に、しかもこんな夜中に女の子がと頭を傾げてみると女の子の数字を数える声が突然ぴたりと止んだ。その直後、背後で何やら小さな物音がしたと思ったら耳元で声が聞こえた。

「みーつけたあ」



「うわあああああああああああっ」
「ぎゃあっ、えっえ何!」

 目の前から伸びて来た、蒼白い腕に掴まれそうになり思わず、飛び起きた。寝ぼけ眼で辺りをきょろきょろと見渡す。さっきのは夢だったのか、それにしてはやけに生々しく妙な違和感を感じた。夢で良かったという安堵感と共にあの後はどうなったのか知りたいと思う気持ちもあった。身体を起こすと空は雲一つない快晴で、燦々とした太陽の眩しさに思わず目を細める。夜ではなかった、それ所か夕方でさえない。自己主張をするお腹からして、昼前だと思う。

「あ芥川君、いきなり叫ばれると流石に驚くよ?」
「だれ?」

 さっきの驚愕した声の主であろうと思われる声が何処からか聞こえてきた。それを辿るように目の前へ目線をずらすと地面に座り込んでいる女の子が居た。自分の絶叫に腰を抜かしたらしく、苦笑いをしている。

「うんと、クラスメイトかな」
「なんか用なのー?」
「ええっとね、その」
「かかかっ風邪ひかないようにね」
「あ、あとこここれあげるっ」


 そう告げるとそそくさと姿を消してしまった。顔が酷く真っ赤で林檎みたいだと思った。それにしても、ほぼ無理矢理押し付けられるように渡された、箱状の物。桃色の包みで覆われ、赤いリボンが結ばれている。よく見るとリボンとの間に小さいメッセージカードのような紙が挟まっている。二つ折りにされたそれを開くと、“パッピーバースデー”と丸み帯びた字で書かれていた。今日は5月5日、こどもの日であり、そして俺の誕生日であった。これの為にわざわざ休日に渡しに来るなんて、相当な物好きだと思ったけれど、嬉しかったのは事実だ。プレゼントを両腕で抱き締めるように抱えて、軽い足取りで歩き始めた。


20110509/ねこ
生誕記念