各地で午後から豪雨に見回れるとの予報があり、案の定外は滝のように強い雨がざあざあと地面を打ち付けていた。校内放送で速やかに下校をするようにと何度も放送が流れていたが、私はそんなこと聞こえないと知らん顔で予定通り男子テニス部レギュラーを部室へと呼び出した。緊迫とした空気の中、声を出す者は居らず、固唾を呑んで黙っている。時計を気にしながらも、最後の一人を待つ。聞こえるのは時計の針が時を刻む音と雨の音、微かな呼吸。そしてきいと音を立てて扉は開いた。その人物が中に入るのを確認すると、ゆっくりと話し出す。

「今日皆に集まってもらったのは他でもない。実は先日、樺地が管理している部室の棚からとんでもない代物が見つかってね。真っ先にその犯人をとっちめてやりたい所なんだけれど、」

 そこで、一拍置いて投影機の直ぐ側で準備をしていた樺地へ合図を送る。

「これって何かな?」

 手元にあるリモコンを投影機の方に向けて、再生を押す。途端に投影機用巨大スクリーンに映像が流れ始めた。この部室内に居る全員が息を呑んだ。それもその筈、巨大スクリーンに映されたのは男女のねっとりとした絡み合い所詮アダルトビデオ、通称AVである。そう、これが樺地が管理している棚から見つかったのだ。だが、私は別にビデオの内容や中学生の癖に十八禁のビデオに手を出した阿呆に激怒している訳ではない。私は只単に、部室にそんな物を持ち込んだ不届き者を懲らしめたいだけである。

「あはは、うける。んーと何々『桃色淫ら「うわあああああああああああああああああああっ!!」ちょあ、宍「宍戸さあーんっ」ちょちょちょお二方」
「おい、これはどういう事だ」
「嬢ちゃん、見掛けによらず勇者やな」

 反応は様々といった感じだ。宍戸なんかは顔から火を噴きそうな勢いで部室から逃げ出そうとしたが、前もって私が鍵を内側から掛けておいたので無駄な抵抗となった。そんな虐め甲斐のありそうな宍戸に「もしかして、これ宍戸の私物?」とからかい半分で問えば、「ビデオは見ねええよ!」と見事に墓穴を掘った。新鮮な反応ににやにやと顔を緩める。しかし、それ以上遊ぶと鳳からの視線がじくじくと痛いので止めた。犯人捜しの中に宍戸は除外。鳳も恐らく無関係。手っ取り早く見つけるにはどうしたものか。

「あ、跡部くん跡部くん」
「あーん?」
「跡部くんなら、誰がどんな性癖持ってるか分かるんじゃないの? 私が集めといて何だけど早く帰りたいのだよ」

 結局丸投げするのかよ、とつっこまれたが気にしない。怪しいのはやはり忍足なんだよなあ。というか忍足以外にいなくないか。変態とはああいう奴の事を指すんだろう。というか、忍足って顔が生まれつき整っていたってだけで丸眼鏡を一般的な眼鏡に替えて、関西弁を取ったら只の根暗っぽい。内心ぼろくそと思っていると跡部に呼び掛けられた。何でもそんな趣味の奴はいないそうである。分かるってお前気持ち悪いな、と口に出さなくとも相手は感じ取ったようで、「お前が訊いたんだろ」と頭を殴られた。

「じゃ、犯人は居ないのかよ。いや、或いは皆で犯人匿ってる、ってまさかの全員共犯かよ。けど、跡部がああ言うんだから。いやいやいや、ちょ待てそれってつまり、監督が犯人じゃ、」
「あ」
「え」

 頭を抱えながら呟くと向日が何かに気付いたような声を漏らした。恐る恐る振り返ってみれば、榊監督の姿があった。ぎゃああああああと叫びそうになったがそこは抑えた。それに丁度タイミング良く、映像の方は終わっていたらしいので監督には見つかっていないだろう。結果犯人は見つからず終いだったので後日としよう。「こここれにて緊急ミーティングは解散、以上。皆直ちに下校だからね」と多少吃りながらも早口で言うと颯爽と逃げるように監督の横をすり抜け、部室から飛び出した。ずっと扉の近くに佇んでいた日吉に鼻で笑われたのはこの際無視である。尻尾ぐらい出しやがれこの野郎。その念は通じたのか後日、部室の扉を開けるといそいそと怪しい行動をしている数人の部員を見掛けたのは言うまでもない。そして、私は困り顔をした樺地の代わりに犯人共に容赦無しに天誅を下した。それはもうこてんぱんに。これ以上は部員達のプライバシーの侵害になる恐れがある為、黙秘とする。とまあ、これにて部室を舞台に起こったある事件は一件落着と丸く収まったのであった。


20120108
滝さん不在