May your Christmas
wishes come true!


 12月25日は何の日でしょうか、と尋ねると彼は呆れたように溜め息を吐いて、「クリスマスでしょ」と俯きながら呟いた。その予想通りの答えににやにやと笑いながら、残念でした。今日はリョーマくんのお誕生日ですーと顔の前で手を交差させてバツマークを作ってみせると、目を真ん丸とさせた彼が突然その場で立ち止まった。そして、また溜め息をひとつ。さては恥ずかしがってるのかなあ、と私は内心浮かれながら、誕生日おめでとうと口を開こうとした。

「先輩、俺昨日が誕生日なんスけど」
「……えーと、え?」
「俺、イブが誕生日ッス」


 俺、イブが誕生日ッス、という言葉が脳内で繰り返される。思わす、いやあああああああと叫びそうになったが私の事よりも早く弁解せねばと口をパクパクと動かす。だが、言葉が出ない。えーと、何でリョーマくんの誕生日が25日って勘違いしたんだっけ。確か、昨日位に桜乃ちゃんからのメール。そうだ、桜乃ちゃんだ。リョーマくんにプレゼントを贈りたいんだけれど何が良いかなって可愛いメールが送られてきた際に、リョーマくんの誕生日って明日なんだ、クリスマスと被ってるとか誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントを同じにされて損する人だ、と勝手に想像を膨らませて同情したのだ。もしかしたら、桜乃ちゃんも間違えて今日伝えたんじゃないか、と不安感を覚えた頃、彼が何かを思い出したように声を上げた。

「そういえば、今日部活行ったら、竜崎にも勘違いされてたんスけど」

 先輩なんか吹き込みました? と訝しげにこちらを見上げる彼にやっぱりかーいと心の中でツッコミを入れるのと同時に、私って信用性ないのかなあと苦笑いする。まあ、桜乃ちゃんは可愛いし、そっちを取るのは分かる。しかし、気付かなかった私もちょっとは悪いかと正直にごめんと謝ると、「しっかりしてよね、名字先輩」と先輩を無駄に強調されてしまった。全くもって可愛いくない。

「あ、そうだ。樅(もみ)の木ってあるじゃない? 樅の木にああいう風に人形を吊すのって人柱の名残なんだって」
「それ、不二先輩も言ってたッス」


 丁度樅の木が飾られているお店を見掛け、思わず口に出してみると意外な回答を得た。不二くんに先越されたか。不二くんそういう関係の話好きそうな顔してるからね。何となく分かるけれど、それにしても人柱って随分恐ろしい事考えてるなあ、なんて気楽に考えていた私だったが、隣を歩く彼はやや重く受け止めているようだ。現に顔色が悪く、「どうして先輩達って揃いに揃って人柱って単語に敏感なんスか」などと呟いている。手塚くんももっと言葉を選べなかったのかな、と考えるもの最終的には手塚くんらしいから良いかなという結論に辿り着いた。「俺も部長になったら、あんな事言わなきゃいけないのか」と軽く現実逃避を始めたように見えて、自分が部長の座につく事が確定している彼は根っからの生意気小僧だと思う。ははっと吹き出しながら、彼の頭をくしゃりと撫でるとじとっとした視線を上げる。やはり生意気でも可愛くなくても何でも可愛い後輩なのは間違いないだろう。

「先輩、顔変ッス」

 やっぱり可愛くない。

Merry Christmas!


20111225/水葬
生誕記念&クリスマス