10月6日
 放課後、私は隣町のショッピングモールにて買い物をしていた。やはり、制服のせいもあってか周りからの視線を受ける。帰宅した後、私服に着替えるとしてもとにかく時間が無いので仕方がない。休日中に買っておくんだったと今のところ後悔している。まあ、今更悔やんでも無駄だ。ようは明日に間に合えば良いのだろう。今はプレゼントを選ぶことに専念しなければ。私事は後である、後。
 さて、彼に何を贈れば喜ぶだろうか?

 10月7日
 「おはようございます、手塚君。何か違う同級生だし。おっはよーう、手塚くーん。絶対に変、というか頭弱い子みたい。ごきげんよう、手塚さま。……疲れてるのかも。おはよう、手塚君」
「おはよう、名字」
 ぴしりと思考が停止した。そんな私にこれといった興味も示さず横を通り抜けて、静かに席に着いた手塚君はやはり手塚君だと思う。私の顔がとてつもなく真っ赤になっているだろうと考えただけで恥ずかしくなり、悶え苦しんだ末に両手でぺちんと両頬を叩いた。自分の頬を押し潰すように両手で挟みながら、手塚君に恐る恐る尋ねる。
「てててて手塚君、今の聞こえちゃってたり、しちゃったりしてないよね」
 声が裏返りそうになった。自分でも意味不明な言葉を発したと思う。
「何か聞かれて不都合でもあるのか。それと名字。俺の名字はてててて手塚ではない、手塚だ」
「え?」
「ん?」
 手塚君って見た目通り、話し難いな。この光景を目撃されて非常に困惑しているって見て分からないのか。というより手塚君ってあれでしょ、天然だよね。
「えっと、んと、うん……」
「手塚だ」
「それは分かったから。手塚君ですね」
 すると、ああと少し頷き何処か満足したような表情をしてから、視線を落としていつの間に鞄から取り出した本を読み始めた。手塚君って何、何なんだろう。
「じゃなくて、手塚君っ!」
「何だ、名字」
「はい、誕生日おめでとう」
「俺にか?」
「うん、対して良い物じゃないけど」
 黄色い長方形の箱に真っ白のリボンが結ばれたプレゼントを両手で持ちながら目を少しきらきらさせている手塚君を見てほっとする。嫌がられたらどうしようかと本当は渡そうか悩んでいたのだが、やはり買ってしまったからにはと覚悟を決めたのだった。先程から無言でプレゼントをじいっと見詰めながら、微動だにしない彼はまるで子供のようで可愛いかった。微笑ましく眺めながら、あっと声を上げると手塚君も顔を上げた。
 「いつでも返品可だから、ね」と付け足して言うと「これでいい」と即答された。それが余りにも必死そうだから、中身まだ見ていないでしょ、と思わず吹き出すうと、手塚君の表情が少し柔らかくなったような気がした。




20111016/青
生誕記念