静かに移ろう
「お、おはようジャン!」
「…おはよう」
「貴方ってとっても早起きなのね、まだ食堂に全然人がいないわ」
「俺はこの時間が好きだからね」
1週間。彼女と知り合ってから1週間。俺はこの大切な時間を過ごせていないような気がする。今まではこの朝の空気を楽しみながら食事をしていたのに、最近はどうやら俺の出没時間を得たらしい様子の彼女が話しかけてくる。話の内容なんてあってないようなものなのだけれど
「ここ、座ってもいいかしら?」
「あー、うん」
もう座ってるじゃないか
この子は一体なんなのだろう。たしかに綺麗な子だとは思う。性格も、まぁ…いいのだろう。そんな子に慕われるだけの魅力が俺にあるとは思えないんだが
「…ねぇ」
「えっ、な、なに」
そんなに驚かなくても
「君さ、最近ずっと俺のとこで食べてるけど、友達とかはいいの?」
「あぁ、大丈夫よ。彼女たちには貴方のことを話してあるから!それにきっと今頃はまだ夢の中ね」
「…あ、そう」
うーん、難しい
話してあるって一体なにを…
「ねぇ、ジャン」
「ん?」
「私ね、思ったんだけど、…貴方のこと全然知らないのよね」
「まぁ、そうだろうね」
あ 嫌な予感
「それで、もしよかったらなんだけど、」
「…」
「あの、来週の日曜は空いてるかしら…?」
正直、乗り気はしない。あまり知らない相手との外出なんて
でも
…でも、
あまりに彼女が可愛らしく伺ってくるものだから。俺だって男だ。可愛いと思うものは可愛いし、面倒臭いとも思うのだけれども。女の子にこんなふうにお願いされて断れるだけの図太い神経も持っていないさ
「仕方ないな。空けとくよ」
「本当に!?ありがとう!」
うん、俺も彼女のことはまだまだなんにも知らないんだ
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