彼を太陽と例えるなら、あの人はそれと対をなす月と答えてもいいかもしれない。あの人は月というよりも闇と表現されることのほうが断然多いけども、私にとっては月のほうがしっくりとくる。確かにあの人はいつも全身を闇色に染め、するりと人の心に潜り込み、にたりと厭らしい笑みを浮かべる。だから、闇。全てが闇のよう。でも私は月という。なぜならあの人は、この混沌と渦巻く暗闇のなかでも周りがよく見え、人々を導いている。その先がどうであろうと私たちはよく見えないからそれに縋る。もしその先が崖となり奈落の底へと繋がっていようとも、それは視力の悪い私達がいけないのだ。私達は光に憧れる。さんさんと降り注ぎ心強い太陽よりも、覚束ない足元を照らし安心感を与えてくれる月のほうが魅力的だ。あの人は、そういう人なんだ










「…臨也さん、どうしたんですか?」

「どうしたって、気が向いたからだよ。それに聞いてみたいこともあるしね」



規則的に発せられる機械音を聞き流し、今だ慣れぬ視界の狭さを気にしながら"あの人"を観察する。やけに静かなこの空間は、自身の心臓の音でさえ相手に聞かれてしまうのではと不安にさせた


「君、なんであんなことしたの?」



瞬間的にあの時の光景が蘇る

投げられた自販機
視界に飛び込む凶器
見開かれた瞳
駆け寄る足音
くすんだ金色

意地汚い、笑み



「…つまらなかったから」



「へぇ、君ってつまらないって理由だけで自らの身を投げ出すような人だったんだ。世間一般論で言うとそれってなんて言われるか知ってる?"大馬鹿者"って言うんだよ」「君は普段からつまらなさそうにはしてたけど、こうなることが"面白い"と思っていたのかい?」「どうだった?実際つまらない愚鈍な日常からは脱却出来たのかな?」「自らを血に染めてまでして刺激を求めるなんて君は俺の思ってた以上のマゾヒストだね」「てかさ、君の周りの所謂"非日常"ってやつが俺と静ちゃんだった訳だよね?君のおかげで随分と楽しい、いつもとは違うスパイスのかかった逃走劇だったよ」



矢継ぎ早に紡がれる言葉の羅列は、かみ砕くには多く、処理をしきる前に流れるように滑っていった
  
にたにたと、それはもう愉しそうに舌を転がすあの人は、眉は下がり目は細く三日月形に歪み口は左右非対象に歪んでいるように思う。これの一体どこが"闇"なのだろうか。もっともっと人間臭い。実態の見えない掴めない闇とは思えない。ずっと我々に近くて遠い存在のよう



「…君、聞いてるの」

「…はい、」

「あっそう聞いてなかったんだね」





「つまり、俺が言いたかったのは、」






「俺達の仲間になりたいと望んだところで、俺達にとってはなんてことない"日常"なんだってことだ」







ドクリ

頬に熱が集まる


そうか、私は臨也さんに近づきたかったんだ。つまらなかったのは、どう足掻いても狭まらない距離に嫌気がさしていたから。少しでも私を見てほしい、有能でも無能でもいい、突拍子もない動きをする"歩"でいい。私を一くくりされた中で見つけてくれたら、それでいい。少しでも、私は月に手を伸ばしたい



「一体なにを考えているんだか。嗚呼、本当に、面白い」



でも、分かっている、月は一人一人なんか判別はしていない、ただまごまごとうごめく小粒を見下ろすだけだ


「本当に、人間というものは勝手だ。俺が発する言葉一つで喜び、哀しみ、絶望する。周りなんて見えていないし、見ようともしていない。俺は、こんなにも君達を見ているというのに」











俺ばかりが好きなんだ






俺は人間を愛している
私は臨也さんを愛している













それなのに、






――――――――

すてきかく僕等の戦争様へ提出





20100711
20101121修正

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