息を、吐き出す
肺が、震える
ハッ ハッハァッ
口からは犬のように熱い吐息が溢れ出る
まるで命の熱が勢いを絶やすことなく身体から逃げ出すようで
やばい、やられたなこれ。目の前が霞んで仕様がない。それにお腹、あつい。あついよあついよ。ゆっくりと自分の腹部を見下ろしてみるとやっぱり
「…はは」
あれだけ人には油断をするな、周りを見ろ、などとほざいていた癖にこのざまだ。今まで何度も見たことのあるその色は、とても鮮やかで"生きている"色をしていた
ゆるりと力の入らない腕を上げ、自らの腹と言えない腹をを撫でてみる。痛みなどもうなく、ヌルリとした感触だけが手についた。嗚呼暖かい、熱い。ぺちゃぺちゃと何を思うでもなくそこを弄っていると次から次に溢れ出す、私の生命力
「…名前、名前!何してるんだお前!」
「あ…銀ちゃん」
「やめろ!待ってろ、今誰か呼んできてやるから」
待って、
やだ、行かないでよ銀ちゃん
起き上がろうと、走り出そうとする脚を掴もうと、腕を伸ばすも届かない。自分の先を思い知る
寂しいよ行かないで。くん、と代わりに着物を掴む。あ、血が着いた。私の血
「、名前」
「ぎんちゃん行かないでよ私もう死ぬんだよ」
「…死なねえよ!お前は死なねえ、俺が、死なせねえから!」
「ありがとうぎんちゃん。でも、もう。自分でわかるんだよ」
「やめろよ…」
銀ちゃんの泥混じりの汗だか涙だかわからないものが顎を伝って私の頬に落ちる。え、なにもかんじない、視覚から理解出来ることが触覚では理解できなかった。銀ちゃんの生きている熱を、私はもう感じられない
やだこんなの
「わかってはいるんだけどやっぱ、いやだね。さいごにぎんちゃんいてうれしいよお、さみしくなんかないよお。それでも、さみしい、やっぱもっといっしょに、いたい、よお!」
「っ、お前がいなきゃ、俺は、っオイ!名前!血なら俺のをやるから、なんでもするから、」
「じゃあぜったいにわすれないで!この、ねつを!ぎんちゃんがすききなひとできても、けっこんしても、わすれないで…わたしよりきれいなひととけっこんしてよ、ね、」
腹に銀ちゃんの大きな掌を導く
私の血まみれの掌で押さえ込み、銀ちゃんを私の熱で包み込む
「名前、名前」
喉になにか熱いモノが詰まって上手く喋れない。銀ちゃんが私を見てくれない。どこ見てんのよ私を見なさいよ
「きいてよぎんちゃん…」
「名前、名前名前名前…ッ」
「ぎ、ちゃん」
私の死体と共に
どうかこの熱情も
壊れる音は聞きたくない
燃やしてください
title:濁声
20090807
20101119修正