鈍色の空を見上げるその表情は酷く無気力で。持ち上げているのさえ億劫なのか、重そうな瞼をのそのそと操りそして閉じた。真っ暗な世界に彼女は何を見ているのだろう。全ての動きを断った彼女は石像のようで。しかし酷く醜い石像だ。過去の夢ばかり見ている彼女は現実で生きるということを怠り、毎日毎日小さく切り取られた鈍色ばかりを見つめていた。





ガンガン ガシャン


「ほら、飯の時間だ」



錆び付いて赤黒く変色した格子戸を叩いて知らせると、ぐるりと落ち窪んだ眼だけが動き私を捕らえ現実に戻る。夢ばかり見ている彼女だが、その眼の奥には鈍く鋭い光が灯っている。それが何を意味するのか



嗚呼、勿論私は知っているさ


鈍りと近づき異臭放つぼろ着れを揺らし飯にありつく様はなんと汚らしいことか。人以下マグル以下の暮らしの下、生活を一切放棄したこの魔女はなんとか食い繋ぎ己が野望のためだけに夢を見る。なあ、頭脂だらけ垢だらけのこいつを見てなんと強かで美しいと思う私は可笑しいのだろうか





「おい、お前」


貪り喰らう彼女は勿論醜いさ。ただ、彼女の何かが美しいのは確かなのだ



「おい、」


ほらこうやって私の声なぞ届きもしない。彼女はあの方あってこそ人間になる



「おい、いいことを教えてやろうか」


ほら、もうすぐだ。彼女は人になる。私が彼女を人にする








「お前、腕が燃えるように熱くならなかったか?」




ピタリ

ああ、それだ、その眼だ。その光が見たかったんだ。黄ばんだ歯を見せ彼女は、




そう 笑っていた











20110113
- ナノ -