普通の恋人同士にはなんてことない会話、だけど私は勇気を振り絞って言った言葉


「どこに行くのですか?」




お前には関係ねぇ

いつもなら必ず言っていたであろう言葉は、彼の薄い唇から吐き出されることはなく


代わりに出た言葉に私は






崩壊の音、頭の中でなにかが崩れ去る音が鳴る。それは私の心か理性か、はたまたそのどちらもか




「な、にを言っているのです」

「もう一度言わなきゃ解んねぇのか。…もう此処に来ることはねぇってんだ」




まっくらになる。あの日愛を囁き合った私達は一体どこに行ったのか。この寂れた薄汚い小屋で、自らの心を埋めるように、お互いの心を貪り喰うように抱き合ったあの日はまだ遠くないのに
  
「一体何故そのようなことをおっしゃるのですか」

「…。明日、京へ発つことになった」



紫煙を燻らせながら遠ざかる背中は、何も語ることはない。いつもはその背中から色々な感情が読み取れるというのに何も見えない、何を思っているのです

嗚呼、行ってしまう


「っ、それなら私も連れて行って下さいまし!」







ゆるりと、それはもう髪の毛束がさわりと揺れ動くように晋助様は振り返って口から薄い白い溜息を吐き出した。それは私までは届かず手前で飛散するが、臭いだけは強く漂ってくる


「…今、なんつった」




どくり
ど くり


空気を揺らす何か。心臓まで届くそれは目の前のケモノから放たれているのか
今まで感じたことはあったけれども私に向かって放たれることはなかったのに、なんで。怒らせてしまった


でも、独りになりたくないの





「わ、私も一緒にと」



心臓は止まない

青みがかった前髪とほんのり黄ばんだ包帯に隠された空っぽの左目が私をえぐる




「オメェがそれを言うのか」









すらり

この埃っぽい空間には似合わない冷たく硬い金属の音が空気を割る


嗚呼、ついに来たのですか。ならば今日の晋助様のあの態度にも納得できる。
さっきまで早鐘を打っていた心臓も今はもう落ち着いて冷や汗も引いてしまったみたいで、我ながら大した度胸のある女だと思う



「やけに落ち着いたな、まぁ初めから分かっていたのかも知れねェが」




首筋に宛がわれる銀色の筋は迷うことを知らないみたいね、少しくらい弱さをみせてくれてもいい間柄にまではなっていたとは思うのだけれども、失笑



「…オメェがそういう女だってことには気付いていたさ」





何時から気付かれていたのでしょうか、全ては完璧だと思っていたのに

でも、薄々感づいてはいた
やはり私も女だったということ



「しんすけさまは判っていらっしゃいませんね」




何処までも一緒におりたいという気持ちは本物でした


耳元でそう囁いてやる
刀芯が食い込むのも気にせずにはいられない
最期に、足掻いてみようかしら




私を全て知った気でいるんじゃないよ







ぎちりと喉元を捕えた金属は一瞬震えてからゆっくりと引かれた











貴方の行き先は破滅なのだから、ここで死んでも結局は同じ運命なのかもしれませんね







  









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すてきかく哭声様へ提出
有難うございました



20091124
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