じくじくじく、指先が痛い。刀の手入れをしてた動きが止まる。じわじわと鳴いている虫の音がやたらと五月蝿く感じられてうざったい。誤って切ってしまった指先に視線を向けたまま身動きすらできない状況に己の器の小ささを呪う。まさか、そんな
「ごめんね」
お前が謝ることなんかねぇのに俺は気の利いたこと何一つ言うこともできやしない、本当小せぇ男なんだ
す、と立ち上がり水の張った盆と消毒液を手に戻ってきたこの女は無言で俺の隣に座りその色の薄い唇を震わせながら気丈に振る舞おうとしている
「ちゃんと手当てをしないと」
わかっているさ。天人の血を吸いこびりついている刀は俺達人間にとっちゃどんな毒になるか知れたもんじゃねぇ。お前はなんていい女なんだろうな、俺には勿体ねぇくらいだと柄にもなく何時だったか思ったことを思い出した。だけどな、今はいいからこっちを向いてくれよ。頼むから、俺の目を見てくれ
今日はこんなに暑い日だったか。開け放しの障子からは虫の音に混じっていつの間やら熱の抜けている風、さわさわと揺れる草の音や匂い、それに隠れるように焼けた臭いがするがこの部屋の空気を変えることは出来ねぇようだ
「晋助、晋助、、ごめんね」
やっと俺を写した瞳はうっすらと透明の膜が張っていて、不謹慎にも美しいと思った。嗚呼、これが
これからこいつはますます美しくなるだろう。7日目の蝉の鳴き声のように、散る間際の花弁のように
もうすぐ夏も終わりのようです
蝉の死骸がひとつふたつ
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百舌鳥様一万ヒット企画へ提出
20090831