さわさわと揺れる新緑、むわりと香る雨の臭い。頬を撫でてゆく風は生温いが湿った肌には心地好い
じわじわと唸る蝉の中、今日もアタシはここにいる。何をするでもなく、何を思うでもなく。ただただ空を眺め、草の薫りを堪能し、雨の気配を感じれば屋根を借り、たまに人間の子供達の足をひっかけて遊ぶ
いつも感じるのは平和と暇と怠惰と
きゃあきゃあと騒ぎ立てる子供は五月蝿くて仕方がないが、何時しかその喚きを心地好く感じ、自分も仲間に入れてほしいと思った。それが可笑しくて可笑しくて
アタシには酌を交わす仲間もいないし愚痴を零せる隣人もいない。
なんと寂しいことか
アタシには渇かぬ喉も望まぬ不変もあるが、その腹は満たされたことはないし、何時も何時も身体の中心がきゅうとなる。これが寂しいということかと気が付いたときには一歩ヒトに近付けた気がしてなんだか顔が綻んだ
今日も今日とて変わらぬ普遍
そろそろ雨が近い。鼻腔に充満する土の匂いを感じ本日の屋根を探す。そういえばここらには久しぶりに来たのかもしれない。昔はよく地蔵の饅頭をくすねにここまで足を運んだものだ。たしか、この近くに巨木が、、
おや なんだい
懐かしい小路を曲がるとそこには人の子がいるじゃあないか。一生懸命に紙を見て首を捻っている様がなんとも滑稽だ
「先客とはついてないねぇ」
この場所はめったに人は近付かない。昔と今では人も変わる
人の子は嫌いじゃあないが煩わしい。特に、こんなふうにお互い1人だと余計に煩わ「あ、すいません」
「……」
はて
右を見ると紙から目を離しどうやらこちらを伺っている様子の人の子
「もしかしてお姉さんも道に迷ったんですか?」
「……………珍しいこともあるものよ」
やはりアタシのことが見えるらしい。しかも人と間違えているのか。お前らのような阿呆と一緒にするとはなんともおこがましい。
「…あの」
「…」
「あの、」
「…」
「いや返事くらいして下さいよ」
「なんだ五月蝿い奴め」
「…」
「用件は言わぬのか。」
「いや…、あの、ここの抜け方がわからなくて。教えてくれませんか」
「ほう」
そうだ いいことを思い付いたぞ
面白いではないか。雨はまだ遠い。少しだけからかって遊んでやろう
「そうか、それならアタシが案内してやる」
「ほんとですか!あぁ助かった」
「ほれこっちだ着いて来い」