星がつかめそうだったから。僕が空へと手を伸ばす理由はそんなつまらないものだった。
「…なにしてるの?」
「ほら、みてよなまえ、星がつかめそうなんだ」
手を開いて空へと翳す。すると夜空で一等に光る星が自分の手のひらの影になって消える。遠くて、手すら届かないような星を、つかめた気がした。
「ねえなまえ、もしも、もしものはなしだよ。」
「やだ、もしもなんてやだよ、
私、きらい」
なまえが嫌、と言っても僕はしゃべりはじめた。ごめんね、でもこれはいま話さなきゃいけないはなしなんだ。いまじゃなきゃいけないんだ。
「僕が人狼でも魔法使いでもなくて普通の、どこにでもいるようなごく普通のマグルだったらきみと結ばれることができたのかなあ、」
ふふ、と笑いながら隣にいるなまえに目をやる。なまえは今にも溢れてしまいそうなくらいの涙を目にためながら僕を見ていた。
「なんで、なんで、リーマスはそんな哀しいこと言うの?」
それを言った途端、涙を塞き止めていたものが外れてしまったらしくなまえは赤ん坊みたいに泣きじゃくりはじめる。
「…泣かないで、なまえ。僕のためなんかにきみが泣く必要ないんだ」
そう言いながら僕はなまえの頭をぽんぽんと軽く撫でる。あたたかい。するとなまえはいきなり顔をあげ、僕の目をじっ、と覗きこむ。
何か言いたそうな、瞳だ。
「じっ、人狼でも魔法使いでも関係ないっ…よ!」
僕の予想は当たっていた。「…何が言いたいの?」冷たく言う。だけど僕にはその言葉以外に見つからなかった。いつもみたいに言葉を選んでる余裕なんてないんだ。
「私は、リーマスが好き。り、…リーマスじゃなきゃ全然っ…意味ない、の…!」
どちらかというと人見知りで人と話すのが苦手ななまえだ。親しい僕と話す時だってくりくりとした大きな目は僕を映さずに、宙を泳いでいるくらい。そんなだから
こんな風になまえが僕に向かって感情をぶつけてきたのなんか初めてで。僕はびっくりすると同時に、いとおしさや笑い、色んな感情が込み上げてきた。あーあ、なんて小さなことで悩んでいたんだろう、なんでなまえを僕を嫌な顔をしてみたやつらと一緒になんか
したんだろう。
「なまえ、」
「ねえ、だから、そんなに哀しいこと言わないで、」
なまえの小さな手が僕の頬に伸びてくる。手が触れて、唇に温かい感触。僕はつかまった。
つかまったスピカ
(こんなにも大切なものがいっぱいあるからこの世界はいつまでもきらきらと光っている。)
20101113