目の前のノートがさらさらと、綺麗な字で埋まっていくのをぼんやりと見ていた。達筆すぎてなんて書いてあるのかは分からないけど、柳のことだから今日収集したデータの整理でもしているんだろう。
流れる沈黙。
柳は私の前でもいつもこの調子だ。それは気を許してくれてるってことなのかもしれないけど、ちょっと不安になる。思えば告白の時も事務連絡を伝えるみたいでムードもへったくれも無かったし、それに私は柳のことを何も知らない。
私が知っている柳のことと言えば、柳蓮二という名前とデータ収集が趣味ということくらいだ。…ああこんなんで彼女って言っていいのかな。
「先程から俺ばかり見てどうした」
そんなことを考えていると、いきなり柳が顔をあげた。私がしきりに柳を見てたのがばれていたらしい。
「いやあ…私、柳のこと何も知らないなあって」
そう言うと柳は少し驚いた顔をして私を見る。…え、何、私なんかまずいこと言った?
「俺はなまえが好きでなまえも俺が好き。…それだけで十分だと俺は思うが」
こういうことをさらっと言ってしまう柳がひどく憎い。顔に全身の血という血が集まってくるのを感じる。だめだ、この人には一生勝てそうにない。
ああ早く冷めろ私の心臓!
冷静を保てよ!
100721 title by Largo