「翔ちゃん、今日も小さくてとーってもキュートです!」
「だああもう!抱きつくな!」
今日も那月のスキンシップは激しい。それはもう身体中から変な音を発するほどに。だけど俺はこいつを拒絶することは出来ない。何故かって?それは――――――
ふと、考えてみた。那月が好きなものは『小さくて可愛いもの』。不本意ながら俺はそれにぴったり当てはまるらしい。可愛い‥かどうかはまあ自分ではわからないけど、小さいというのは将来どうなるかはわからない。俺だって男なんだし近い将来ぐーんと伸びて那月よりもずっと大きくなるかもしれない。そしたら那月は、もう、俺なんかに興味もなくなるのかな。なんて、こんなうじうじしてカッコ悪。
「翔ちゃん、悩み事ですか?」
どうして那月には隠せないんだろう。こんな醜いモヤモヤ、見せたくなんてないのに。なんでもねぇよ、なんて強がってみても、まったく引き下がろうとしないコイツをどうにかしてほしい。まあ、俺を心配しての事だろうけど、今は、駄目だ。
「なんでもねえってば。気にすんな」
「‥僕には言えない事、なんですか?」
ああ、もう!そんな落ち込んだ犬みたいな顔すんなよ!しんとした部屋の空気がいつもより重たい。那月と一緒にいる時間がこんなにも苦しいと思ったのは初めてかもしれない。じっと俺を見つめる視線、チクタクと鳴る時計の針、そして少しずつリズムを早くする俺の心臓。
「‥那月は、さ」
「はい?」
「もし、もしもだぞ。俺の身長がすんげぇ伸びてさ、そんで那月よりも大きくなって、」
「‥‥」
「俺が全然『小さくて可愛い翔ちゃん』じゃなくなったら、もう俺に、構わなくなるの、かなあとか思って、」
後半につれてだんだんとか細くなる声。女々しいな、なんか。那月はまだじいっとこっちを見ている。その目は、俺が話す前よりもずっと悲しそうな色を浮かべていた。那月?と呼びかけるとそれはそれは小さな声で話し始めた。
「翔ちゃんは、僕にぎゅうってされるの、嫌ですか?」
「え?」
「僕に、可愛いとか言われるの、苦痛でしたか?」
「ちょ、那月!なんでそうなるんだよ!」
今にも泣き出しそうなコイツに思わずあたふた。だってそんな事言ってない。こういう時にどうやって自分の気持ちを伝えればいいのかまったくわからない。好きだ、って気持ちを伝える術を俺は知らない。まだまだ子供なんだって痛いほどに感じた。
「いや、あの、そうじゃなくて。那月が構ってくれなくなったら、その、寂しいなって‥」
「僕は、翔ちゃんが好きです。小さくなくても可愛くなくても、きっと僕は、翔ちゃんの事を好きになったと思います」
「そっか‥うん、」
そう言ってそっと那月の頭を撫でる。ふわふわしてて気持ちいい。すると突然、撫でていた手を引かれ物凄い強さで抱き締められる。「翔ちゃんだーい好き」と耳元で言われて、なんだか恥ずかしくなって熱くなるのを感じた。どうしてコイツはこんなにストレートに伝えられるんだろう。それが時に長所であり、短所にもなりうる。俺はまだ、気持ちひとつも言葉に出来ないのに。窓の外から欠けた月が黙ってこちらを見下ろしていた。
未熟な心は強がり
(気持ちを伝えるの、怖くて)