「なあ千歳‥」
「なんね?」
「めっちゃ寒いんやけど‥」
なんでこの真冬にストーブが壊れてるんだ。扱い方が悪かったのかストーブがぼろかったのかは知らないけどとりあえずこのままでは凍死してしまう。しかしさっきから目の前のこいつはけろっとしていて腹が立つ。俺はこんなに切羽詰まっているというのに。それにこいつは確か寒がりのはず。のしのしと千歳に近づいてぎゅうって抱き締めてみる。
「ん?今日はたいが積極的っちゃね」
「やって寒いし。‥ってなんかお前温かすぎひん‥?」
「そ、そんなことなかよ」
「なんでどもんねん!怪しい‥、1回そのガウン脱いでみ!」
棒読みの叫び声を上げつつも素直に脱がされてくれた。千歳はいつでも無抵抗な奴だから脱がすのなんて簡単。そしてガウンの内側を見てみたら3枚もカイロが貼られていた。俺は千歳から与えられた寒さしのぎの毛布を被り震えながらも寒さに耐えていたのに!「ずるいわ!」とギンっと睨みながら小さくなっている巨男に怒鳴る。3枚もあるなら俺に1枚くらいカイロを与えてくれてもいいのに、というかお客様が最優先!というのはちょっと図々しいかもしれないけど。
「えーと、‥すまんばいね」
「ずるい、寒い」
「お、俺が温かかったら白石が寄ってくるんじゃなかち思ったたい‥」
ぼそぼそと小さい声で告げた言葉はものすごく可愛らしいもので溜め息がでる。いや、可愛いというよりはくだらない。くっついてほしいなら、素直に口に出せばいいのに。普段の俺はそんなにつんけんしてたかな。‥ああ、してたかもしれない。そんな可愛い奴じゃないんだ俺は。でもそんな事言われたらちょっとべたべたしてやってもいいかなって、思っちゃうじゃないか。
「しゃーないなあ、今日はずっとぎゅってしてたるわ」
「‥ずっとされてたら、俺の息子が元気になっとよ」
「‥‥前言撤回。俺の半径3m以内に踏み込んだら毒手や」
ノーラブ、ノーライフ
(寒さよりも勝る暖かさって?)