※トキヤがLUSHの石鹸を使ってたら可愛いなあと思ったので
「トキヤ、これあげる!」
本の世界に浸っていたら、唐突に音也がにこにこと話しかけてきた。文字通り素晴らしい笑顔を浮かべた彼が嬉しそうに勢い良く差し出したのは透明な箱に入ったゼリー状の赤い物体。可愛らしくラッピングされたそれは男2人の部屋にはとてもなんとも不釣り合いなものだった。
「‥ありがとうございます。ゼリーですか?」
「ううん、食べちゃダメだよ!それね、石鹸なんだ」
「石鹸?」
これが石鹸?どこからどう見ても石鹸には見えない。興味をそそられた私はスルリとリボンを解いて箱を開けてみる。そして手で仰ぐように匂いを嗅いだ。鼻を掠めるのは苺の匂い。でも確かにそれはバス用品で、明らかに食用ではないのだということは理解できた。
「これを私に使えと?」
「うん!トキヤに似合いそうだなあって思って買ったんだから」
私に似合いそうには全く見えない。だってこれは如何にも女性向けのものだろう。これを自分が入浴中に使っているのを想像したら、なんだか少し寒気がした。
「こういうものは七海さんの方が似合うのでは‥」
せっかくくれたものに文句を言うのは人としていけない事だと思う、けどこれは確実に貰うべき人が違ってるのではないかと思いおそるおそる音也の顔色を伺いながらそう告げてみる。すると音也は少し眉を下げ、落ち込んだ素振りを見せた。
「‥トキヤ、気に入らなかった?」
「そういう訳ではなくて‥!」
「いいよ、気遣わなくて!じゃあこれは俺が‥」
可愛い物体にスイッと伸びて来た手を私は反射的にはらいてしまった。それに驚いたように音也が声を上げる。私は全然気を遣ってなどいない。気を遣ってくれているのは音也じゃないか。それに何より嬉しかったのは、本当に私を思って選んでくれたこと。七海さんの方へ誘導しても流れなかったから。
「せっかくなので、ありがたく頂戴します」
「無理しなくて‥」
「していません。ありがとうございます」
「そう?どういたしまして!じゃあ使ったら匂い嗅がせてね!」
「‥は?」
こうしてこの日から男2人の部屋にはやっぱり不釣り合いな物体が浴室に置かれるようになったのだった。
苺の香りに溺れる
(ふわふわ香る、惹かれる)