太陽の光が心地良く差し込む午後。ふわりと鼻を掠めたのはコーヒーの匂い。キッチンを見ると、トキヤがコーヒーを入れていた。なんだか映画の1ページのように絵になる彼。なんとなく心がむずむずして思わず「俺も飲みたい!」と叫んでいた。すると、了承したようにこちらをちらりと見ると、紅茶のパックを出そうとしていたから慌てて、違う!と告げた。
「俺もコーヒー飲む!」
「‥あなたは飲めないでしょう?」
「飲めるよお!俺だってもう20歳だもん」
「別に年齢は関係ない‥」
ブツブツと反抗するトキヤを「いーから!」の一声でまとめたら、少し眉間に皺を寄せた。わかりました、と告げて棚からもうひとつコーヒーカップを取り出した。好きな人と同じものを飲みたい、だなんていつからこんなに女の子みたいになっちゃったんだろう。苦いものは嫌い、だけどトキヤが飲んでいるのはすごくすごく甘く見えちゃうんだ。
ふわふわとした湯気を連れて2つのコーヒーカップがテーブルにやってきた。俺の前にトキヤが座る、これが日常。ナチュラルにそうやって椅子に座ったり、そして本を読み始めたり、そういう瞬間を見ると、一緒に暮らしてるんだなあって実感して妙にくすぐったい。
カチャリと音を立ててカップを持ち上げる。鼻を掠めるのは嗅ぎ慣れた匂い、トキヤの匂いかな。そっと恐る恐る口に運ぶ。口腔を侵したのは苦みだけ。おかしいな、全然甘くないや。
「うぅ‥苦い‥」
「だから言ったでしょう。まったくあなたという人は‥」
呆れた顔をこちらに向けながらひとつ溜め息。トキヤが飲んでるのは甘く見えるのに。そう思ってトキヤのコーヒーを飲んでみたら同じように苦かった。
「なんでコーヒーって苦いんだろ」
「紅茶、入れますか?」
「俺もトキヤと同じもの飲みたいよー‥」
あなたはまたそんな‥、とかなんとか小さな声で呟きながらトキヤはキッチンへと足を向けた。そしてゴソゴソと戸棚を漁っている様子。何をしているのかわからなかったから俺は黙ってそれを見つめていた。するとすぐに細長いシュガースティックとミルクを手に戻ってきた。
「ブラックじゃなかったら、まだ飲めるのではないですか?」
サラサラと溶けていくシュガー。なんだかわくわくする。いただきます、じわりと甘みが口内に広がった。
「おいしい!おいしいよトキヤ!」
「‥よかったですね」
感動してガタンと立ち上がった俺にちょっと退きつつもふわりと笑顔を見せた。
ビターな部分はトキヤにあって俺にはなくて、スイートな部分はトキヤになくて俺にはある。甘さと苦さは紙一重なんだ。少しのトッピングでまったく違う面を見せる。それって、俺らも同じじゃない?
きっと俺らは近いようで、全然遠い。だからこそこんなにも違う味を、お互いを求めるのかもしれない。
スイーテスト・ラバーズ
(ビターがお好み?)