ほう、と小さくため息をつくとそれは白く濁り空気の中へ溶けていった。
机に手のひらをつける。冷えた感触が伝わってきた。熱が奪われていくのがわかる。
他の人がいれば(例えば会長、例えば書記。)きっと暖房をつけるのだろう。けれど、私はそれが職権濫用のようで どうしても好きじゃなかった。
窓からはテニスコートが見えた。ここ生徒会室は最上階にある。
柳先輩は仕事があれば呼んでくれればいいと言ったけれど、あの中へ呼びにこいと言うのなら呆れてしまう。
テニス部からは白い目で見られ、ファンからは非常識だと言われるのだから。
非常識はどっちなの。
出来ないわけでは無いけれど、時間が勿体無いので私はいつも電卓をつかう。
それを柳先輩はいつも笑うけれど。
誰もが柳先輩みたいに何でも出来ると思われたら困る。天才と呼ばれるのはほんの一部の人間であり、私たちには到底関係のない話なのだから。



「……あ」



もう一度見直してみても、やはり表の計算が合わないのだ。
しかも、テニス部の予算。
何だか惨めで仕方がなくて、私は机に顔を埋めた。何やってるんだろう。
テニス部の事なら柳先輩がやれば良いのに。なんで私なんだろう。
それよりも、なんで柳先輩は私を生徒会に推したんだろう。なんでよ。
文句を考えていたらどんどん涙が込み上げてきた。馬鹿みたい。頑張っちゃってさ。
生徒会なんて別に肩書きだけの人も居るのにさ。どうせ働いたって誰かが誉めてくれるわけでもないし。
なんで一人でこんなことしなくちゃいけないの。もう、辞めちゃいたい。
そうだ、もう辞めよう。馬鹿らしい。

がらり、と不意に後ろで音がした。



「みょうじ」



ああ、柳先輩の声だ。



「みょうじ…」

「なんですか」



ぱさりと頭に何かをかけられた。それが柳先輩のジャージであると気づくのにそう時間は要らない。



「俺に言えと言っただろう?」

「言えるわけ無いじゃないですか。それにもう、私生徒会辞めますから」

「……なまえ」



びくっと肩が揺れた。
は、なんで柳先輩が私の名前なんか呼ぶの?



「いい加減、一人では無いと分かってくれ」



柳先輩が目の前に座っていた。少し熱い指で私の頭をぽんぽんと撫でる。
その優しい目が余計に憎たらしかった。本当に馬鹿らしいのだけれど、もう少しだけ頑張ろうかと思ってしまった。







110130 梛




*園より
うひいい!なぎちゃんの柳は本当にかっこいい..!
さすがです感無量!
こんなこと言われたい(^p^)←