初めて誰かに恋をした
  /幸村精市



ぽつり、
雨粒が広げた手のひらに落ちた。
ぎゅっと握ってみれば、ただそれはじわりと手の中で広がって。
ぽつぽつと雨が当たる。
涙が零れたことは知らないフリをして、私は歩き出す。



「幸村くん」



笑いながら彼の名前を呼べた頃の自分が懐かしくって、妬ましくって。
私は何処で間違えたのだろうと、何度も同じ頃を思う。
雨に濡れたアスファルトが足元でざりざりと音をたてる。
髪も濡れて頬に張り付く。
もう一度彼の名前を呟いてみた。

初恋、そう、初恋だった。
中学に上がって3年目、それでやっと初恋だなんて、誰かが聞いたら笑うんだろうな。
だけど確かにそれははじめての感情であって。
はじめて幸村君を見たときには、硝子のような人だと思った。
傷つければ簡単に壊れて、もう二度と笑顔が見られないんじゃないかって。
次に見た幸村君はテニスコートに立っていて、負けた上級生を見下ろしていた。
何かが違うと感じた。
そして3度目、彼は私に微笑んだのだ。



『ありがとう、なまえさん』



間違いなく私の名前を呼んで。
その時から私の心臓が今までとは違って、何かがおかしくなった。
彼の笑顔を見るたび、ぎゅっと胸が痛くなって、彼に触れられた部分がずっとずっと熱くて、
私だけど私じゃないような感覚。



『幸村君が、すき、です』



あ、そうか。
私はここで間違えたんだ。
言ってしまったら終わりだと、あの距離さえ保てなくなってしまうと私は分かっていた。
それなのに、彼の笑顔に触れたくて、もっと近づいてみたくて、やっぱり私はあの距離を壊した。



「幸村くん」



私の声は酷くなった雨音に掻き消された。






 初めて誰かに恋をした






***

このハイスピード自分でも信じられません。
お題の力ってすばらしいですね。
わーい企画ばんざい。
それにしても幸村君が一度も出てこないあら不思議。





*園から
梛ちゃんより、「初めて誰かに恋をした」 幸村さんでした*
素敵幸村さま..!
切ないの大好きです。胸がきゅうっとなりました。
ああ素敵ワールドです..!
というかあまりのスピードに吐血気味です(^p^)
素晴らしすぎます..!