「…」
警察に連絡するべきか否か。とりあえず恐る恐る近寄ってみる。ただの酔っ払いだったらどけてさようならしたいんだけどなー…髪の色は紫だしぼろぼろのコート着てるし…怖い人だったらどうしよう。つついてみようかな起きるかな。「…う…」「!!!」つつこうと伸ばした手を思わず勢いよく戻した。しゃ、喋った!!そりゃ喋るよ人間だもの!!どうしようどうしようと考えている間に、倒れていた人の目がゆっくりと開かれ、私を捉えた。
「…」
「…」
「…」
「…」
沈黙。ぱちぱちと数回瞬きはしているがどうやら状況が掴められないらしい。それは同じく私もなのでなんと声をかけていいやら分からない。このはりつめた空気(目の前の人は全く感じていないようだけど)を誰かはやくなんとかしてください神様仏様!
祈り続けたが暫く続いた沈黙を破ったのは目の前の人で。
「…誰?」
私の台詞だよばかやろうと思わず声に出しそうになったがなんとか我慢。えらい。えらいぞ私。
第一声がそれかとかどうしてこうなったんですかとかいろいろ突っ込みたいことはあったが、でもその喋った雰囲気が想像してたよりよっぽど普通の人で、少しほっとしたのでちょっとだけどうでもよくなった。もうどうでもいいからとりあえずどいてもらおう。
「…あの、私ここの部屋の住人で…」
「え?部屋?」
「貴方がここで倒れていたので、入れなかったんです」
「倒れ…?」
「…」
頭にはてなを浮かべる目の前の人。何も覚えて無いのかな。酔っ払ってって感じでもないし、一体どうしたんだろうか。
見た感じ若いし…20代前半って感じ。髪色と恰好は気になるけど喋った雰囲気は本当に普通の人。
「何してたんだっけ、アタシ」
あれ、聞き間違いかしら。
「美術館にいたのは覚えてるんだけど…何してたのかあんまり覚えてないのよね」
「…」
前言撤回前言撤回。普通の人というわけではなかったようです。
(これが世に聞くオネェでしょうか)