美術館なんて久しぶりとわくわくしながら来て、わくわくしながら見ていたのだが、ふと気づけば一緒にわくわくしていた人が隣からいなくなっていた。「…」彼女を置いて先に行ったとかそんなばかな。あの紫わかめこのやろう。ちょっぴり寂しいとか思っちゃっただろ。まぁ、ずっと並んでみるものではないと思うけど、何か一言かけてくれたっていいのに。

…まぁ行ってしまったものは仕方ない…一人でのんびりみよう。といってもなんだか気分が下がってしまってどうにも鑑賞するぜという気分になれない。どうやら私は美術館より久しぶりのデートへのわくわくが強めだったようでゲルテナさんには申し訳ないが大分冷めてしまった。隣で無個性について語っていた人がいきなりぐいぐい意見を求めてくるのも正直どうでもいい。ので、適当に真剣な顔してうんうん頷いておく。



「どこいったのかなーギャリーは」



満足したらしい隣の人がまたこの首の無いもの達を見つめ始めたのでそっと隣を離れて壁にもたれかかり、はぁとため息を一つついたところだった。コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツもの凄い勢いで近づいてくる足音。コツコツコツコツ。館内は走ってはいけませんをぎりぎり守っているくらいの速さじゃないのだろうか。何何何何誰何事と反射的に音のする方へがばりと顔を向ければ見知った顔が、あれ、え、ギャリ「むぐ」



「…」

「…」

「…」

「…」


HUG。まさかの。え、ええ…ここ美術館ですよお兄さん。まだ状況がつかめない頭でそのまま固まっていたのだがいかんいかんここは公共の場だ。もし私が美術館でこんなカップルを目撃したとしたら絵画の額縁の角で殴りたい衝動にかられることだろう。美術品だろうと知りません。…などと言った後だがちょっと今回だけ…今回だけはお願いだから許してもらいたい。かたかたと震えているこの人を振り払うことなんて私にできるはずもありません。



「…ギャリー?」

「…」


無言のうえに抱きしめる力が強くなった。ぐぇ、ちょっと苦しい、けど、我慢する我慢。何かあったの、かな。とりあえず私も両手をギャリーの背中にまわし、ぽんぽんとかるくあやすように背中を優しくたたきながら抱きしめかえした。よーしよーし。そこでようやくぴくりとギャリーが反応した。「…アタシも…」やっと聞けたギャリーの声はひどく小さかった。



「よく…わからないんだけど…」

「…うん」

「いろんなことがあって…」

「うん」

「…すごく…………………」

「……ギャリー?」

「すごく、会いたかった」



消えそうな、泣きそうな声でそう言うギャリーの顔は見えない。この数分の間に一体何があったというのか。ギャリーにもよく分からないのだから私になんて分かるはずもないが、こんなことになるような何か相当大変なことがあったんだろう。
…いなくなったと気づいた時点で探せば良かった。ギャリーが私置いて先に行くわけないのにばかだなぁ私本当ばか。今そんなことを思っていても仕方ないが後悔してもしきれない。ごめんねの代わりに強く強く抱きしめればギャリーもまた強く抱きしめ返してくれた。



「…名前」

「うん」



名前、名前、確かめるように名前を呼ぶギャリー。大丈夫、大丈夫ここにいるよ、離れないよ。まだ少し震える広い背中を何度も何度も優しく撫でた。




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