「意味が分からないんだけど」

「私の台詞なんだけど」



「はぁ?」不機嫌そうな声が耳元で聞こえると共にお腹に回された手に力が入れられて私の内臓が悲鳴をあげた。苦しめるつもりは無いんだろう(と思いたい)けど全力でこの大空に向かってぎぶぎぶと叫びたい。悔しいから叫ばないけど。耐える女よ私は。



「屋上で食べたいとか言い出したくせにお昼も食べずに何これ何してんの」

「見たら分かるだろ」

「…」


ちらりと渚の方を視線をうつす。座っている私の後ろに、私を足で挟むように座り、お腹に手を回して抱きしめ(しめつけるとも言う)、頭を肩口に埋めている渚。傍から見たらいちゃついてるようにしか見えないとは思うんだけどそんな甘いものじゃないわけで渚から感じられるオーラは全くピンク色なんかではなく、グレーっぽいというか寧ろ黒いというか不機嫌オーラなわけで。「渚ご飯食べようよ」「…」「渚さーん」「…」「渚くんお腹苦しいです」「…」「ぐぇっ」このやろう今度はわざと力入れてきた。


「名前は僕の恋人だろ」

「こ、は?そ、そうだよ恋人だよ恋人を苦しめないでください」

「苦しめてないよ」

「お腹お腹!」

「…」


少しだけ緩んだもののまだ苦しいです。


「私が何かした?」

「…さっき」

「さっき?」

「…」

「言ってよ気になる」

「シンジ君と何してたの」

「シンジ君?」


はあ?それが渚の不機嫌とどう繋がるの?思い切り眉間に皺寄せたらしめつけるの攻撃力が上がった。

…さっきといえば同じ日直のシンジ君と窓で黒板消しぱたぱたしながら今日良い天気だねーそうだねーなどというほのぼのとした時間を過ごしただけなんだけど。癒されたんだけど。渚が不機嫌になる要素何一つないんだけ「キスしてた」してねえええええええええええええええ!!!


「おかしいおかしいおかしい!!」

「顔近づけてたじゃん」

「はぁ?顔近づけてなんか…っ………………、ああ」

「!ほらしたんだ」

「いやしてないし近づけてたけどキスとかそんなんじゃないし!」

「シンジ君にキスしたんだろ」

「しかも私からかよ!してないし!そんな肉食系じゃないし!ていうか渚にすらしたことないのに!!」

「してもらったことない」

「そこはいいよ!だからあれは」

「もう知らない」

「ちょ、すぐ拗ね…いだだだだだだ苦しい苦しいギブギブしめつけないで!」

「ばか」

「ばか!?…シンジ君が!黒板消しぱたぱたしてたせいで!粉が目に入っちゃって!見てあげてたんです!!」

「…」

「渚の考えてるようなやましいことは何一つございませんでした!」

「…」

「………誤解は解けましたか」

「………なにそればかじゃないの」

「なおも罵られるだと…」



ばかじゃないのなのはお前ではなかろうか!と思ったけどお腹の力が緩んだから喉元で抑えておいた。ふーんと先程とは全く違う声色の声が聞こえる。どうやら機嫌は直ったようだよかった本当によかった。はぁと気づかれないように小さくため息をついてお弁当箱に手を伸ばした。やれやれやっと平和なお昼ご飯が食べられ

「でも誤解させたのは君なんだから責任とってよね」

なかった。






(君からキスして)
(いやいやもう勘弁してくださいだだだだだだ苦しい苦しいギブギブギブ)





2013.02.14

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