あたたかくて優しい匂いがする。
「………」
うっすらと開いた目はまだ光になれておらず視界がぼやける。ああ、朝かと覚醒しきれていない頭でぼんやりと思いながら、このままこの心地好い微睡みに身をまかせていたくて、またゆっくりと目を閉じた。
何か、夢を見た気がする。暗い美術館と、綺麗な青と赤の薔薇、あと、あと、何だったっけ。黄色。小さな。
「……めあ…り…」
ぱちり、そこまで思いだして思考が止まった。膜がはったようにぼやけていた頭の中が瞬時にクリアになり、心臓が騒ぎ出す。めありーメアリー黄色の薔薇の女の子。ああそうだ確か、確か美術館で、「ん…」「!」ただでさえうるさい心臓がさらにはねあがった。
…今、声がしたような。もちろん声の主はアタシじゃない。じゃあ、と思わず声のする方を向くと、目に飛び込んできたのは、ちょうど後頭部がこちらに向いている形で布団に頭を乗せている人。
え、え、え、誰誰誰。混乱しながらもとにかく布団から出ようとぐいと手を上に持ち上げてみれば「え、何で」なんとアタシがこの子の手を握っているという状況でさらに混乱してしまった。…………どういうことなの。大体この部屋、見覚えが全く無い。この子はいったい、と思ったところでふと先ほど口にした子ではないもう一人の少女が頭を過ぎる、そう、奇妙なあの場所で行動を共にした
「…イヴ…?」
いやいやいや、こんなに大きくなかったわよ。9歳よ9歳。寝ぼけてる場合じゃないとぶんぶん頭をふってまた考え直す。昨日のことから順に。ええと、確か昨日はあの後、
「あ」
「んー…」
「!」
「……うるさ………」
「…」
記憶がやっと噛み合ったところで目の前の女の子(確か名前という名だ)が目をさました。ゆっくりとした動きで頭を上げ、小さく唸りながら目をこすっていて、まだ少し寝ぼけているようだ。そうアタシは確かにこの子の家の前にいて、また気を失ってしまったのだ。その後はこの状況からなんとなく分かる。…何か言わなければ。ありがとうとか、ごめんなさいとか言わなければいけないことだらけでどれから言おうと考えていたらまだ半分しか開いていない眼が彷徨いながらもアタシを見つけた。
「…………ん…?」
「あの、名前」
「あ、あー……そうだった…えーと………」
「なんと言ったらいいか…その」
「体はもう大丈夫なんですかキャリーさん」
「…」
とりあえず。
(ギャリーね)
(え、あ、ごめんなさいギャリーさんギャリーさん!)